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いま、現代アートの世界は、日本人にとってそれほどまでに知られていないのが事実。しかし、アートの世界は知れば知るほど奥深いもの。人気画家の絵をひとつとっても、驚くほど種類があります。
「現代アート」という、霧の向こうにあるような美術のジャンルは把握するのも難解ですが、まずは近代から現代、ポップアートから戦争画、または伝統的な日本画など、人気画家の描く絵画の違いを知ることで、よりアートに関する教養が深まるでしょう。
今回、それぞれ違った時代やジャンルの人気画家を8人紹介します。一覧から自分のお気に入りの作家を見つけ、アートをもっと楽しんでみてください。
今知っておくべき画家8人をご紹介
ピエール=オーギュスト・ルノアール
1841年2月25日
ルノワールは、言わずと知れたフランス印象派の画家。その名画は高い価値を持ち、また複製されることも多く、現代でも世界的にファンを持つ人気画家です。
フランス、イタリアをはじめとするヨーロッパの絵画は、その長い歴史において「様式美」を重視され、近代までたいへんクラシックな画風の絵が描かれていました。しかし「印象派」というのは、その様式が台頭するまでの保守的な様式を覆す革命的な芸術運動だったのです。
たとえば、それまでの保守的な絵画様式が「理想」を求め、「全ての人間からそう見えるべき」としたイメージを描くことであったとすると、印象派の絵画が表しているのは「現実」であり、「私たち個人の目から見える、感情を含めた現実」です。
中でもルノワールは、印象派からその後のポスト印象派までを跨いで活動した人気作家で、やわらかな色使いで、人物を含めた市場や街中などの風景画を多く残しています。ルノワールを含め、印象派の絵画を見るときは「この風景は、今私がそこで観ている」と想像しながら鑑賞してみてください。
パブロ・ピカソ
1881年10月25日生まれ。
「芸術家といえば誰?」と聞かれたら「ピカソ」と答えるくらい、スペイン生まれの芸術家パブロ・ピカソは世界的に有名な人気画家です。
ただ、そうして「20世紀最大の画家」と誰もが把握していても、ピカソの何が素晴らしいのか、というところまで説明できる人はあまりいないのではないでしょうか。その絵画では「ゲルニカ」という戦争画が有名ですが、実のところは美術の世界では「キュビズム」という様式を生み出したことで最も評価されているのです。
「キュビズム」というのは、ピカソが同時代の作家ジョルジュ・ブラックと共に生み出した様式であり、一枚の絵画に多方向からの視点を取り入れたもの。要するに「動かない絵に動きを取り入れて描く」という画期的な画法です。
その無理難題のチャレンジであるために、キュビズムの絵画はとても前衛的な抽象画のように見えます。キュビズムのほかにも、「新古典主義」や「シュルレアリスム」といった、当時の新しい様式や技法をすぐさま理解し取り入れるのが、ピカソというパワフルで活動的な人気画家の特徴になります。
ちなみに、「ゲルニカ」はシュルレアリスムと宗教画の要素が取り入れられているといわれています。
藤田嗣治
1886年11月27日生まれ
美術といえば「ゴッホのひまわり」「モネの睡蓮」と思い浮かぶ人は多いと思いますが、藤田嗣治の名が出る人はかなりアートに詳しい人物になるでしょう。
しかし、日本の戦争絵画を語るときには藤田嗣治は外せない人気画家です。「従軍画家」として戦争を記録、もしくはプロパガンダとして提示するため絵を描く画家として、国家に雇われて戦争画を制作。しかし、その本人は平和を望む人物であり、終戦後は戦争画を描くのをやめ、フランスに移住後二度と日本に戻りませんでした。
フランスに帰化し、「レオナール・フジタ」と名前を変えた彼は、戦争画以外に人物画で知られている人気作家であり、「乳白色の肌」といわれる滑らかなミルク色の肌が特徴の、印象派の女性像や裸婦像や猫の絵を多く残しています。日本画の技法を用いた、淡い色彩で繊細で優雅な画風は、当時のヨーロッパのアートシーンで人気を集めました。
藤田は日本の教科書で見かけることのない画家ですが、唯一の日本生まれのエコール・ド・パリの芸術家として、必ず知っておくべき人気画家なのです。
草間彌生
1929年3月22日生まれ
草間彌生は、いまや日本人なら誰もが知っている前衛アーティストです。水玉模様の巨大なサイズのカボチャのオブジェやインテリア雑貨などが人気ですが、元々は絵画をメインに制作していた人気画家でした。
日本人の人気画家は、海外の活動を経て逆輸入的に有名になった人が多く、草間彌生もその一人。1957年に渡米するまで、草間彌生のアート活動は国内で名声を得られませんでしたが、ニューヨークのアートシーンでの活躍があってから、日本の美術業界から注目される人気画家になったのです。
1960年代の草間彌生の活動の中でも特に、キャストや自らの体に水玉のボディペインティングをして裸で走り回るといった「ハプニング」のアクションは、衝撃的。1973年に帰国したのち、精神的な不調により入院生活のなかでアート制作をするようになるまでは、そのようなかなり精力的なアート活動を行なっていました。
現在でも、アメリカのアートシーンでは草間彌生の存在は重要な立ち位置を占めおり、毎年アメリカ各地のアートフェアなどで作品が販売されると、すぐさま買い手がつくほどの人気があります。今や草間彌生は高齢ですが、「死ぬまで描く」とエネルギッシュな熱い魂を持つアーティストであり、日本の美術館が誇れる世界的な人気画家です。
奈良美智
1959年12月5日生まれ
奈良美智(ならよしとも)は、草間彌生とも手紙のやり取りなど交流のある、日本の現代アート界をけん引する人気画家のひとり。大きくデフォルメされた少女像は、誰もが一度は見たことがあるでしょう。
ポスターや公式グッズなどの通販もあり、日本の「カワイイ」文化を押し上げるポップアートで一世を風靡した、好きな現代作家ランキングでも上位に登るであろう存在です。
奈良美智は、「現代アートってなんだかよくわからない」という人にも親しめる、飾る絵として素敵なイラストのような純朴な作品を制作する人気画家のため、絵画を特に何の事前知識もなく楽しむことができます。
水彩画やアクリル、版画や油絵具などさまざまな画材を使って描く、こちらをじっとのぞきこむような、あるいは睨みつけるような、大きな瞳の少女の絵は、絵の前に立つ人との静かな対話を生み出すようです。
また、奈良美智は自身が好む洋楽のロックミュージックに影響を受けた一面があり、ドローイングなどにその片鱗が表れています。現代の人気画家としてまだ世界的な基準でいうと若手であり、twitterにも公式アカウントがあるので、今を生きる人気画家がどんなことを考えているのか、このアーティストの生の言葉をみることもできるでしょう。
松井冬子
1974年1月20日生まれ
松井冬子は日本画家として活動する奇才であり、その本人のハッとするような美貌と、耽美でなおかつ「おどろおどろしい」、色気のある作品で注目される人気画家です。
日本画の世界では古来から「九相図」という、人の死後の肉体の様子を描く題材があり、松井冬子も好んで作品の題材にします。芸術はたびたび「生命とは何か、死とは何か」という人間の持つ根本的な疑問をテーマとすることがあり、その題材は人気作家もアートファンも惹きつけてやまないもの。
ネガティブな感想を持つとするならば、リアルな死や肉体の腐敗などの描写は「怖い」「気持ち悪い」と思われるかもしれませんが、松井冬子の作品はそれらも含めて大変美しく、見ていると幽玄の世界に誘われるかのような感覚を覚えます。
生と死、美と醜、そのような対極にある要素は常にお互いを引っ張り合っているという様子が、松井冬子の作品からは感じられます。永遠は存在せず、我々は生きながらも常に「死」という存在を孕んでいる。そういった、哲学的で孤独な世界観のある人気作家です。
ゲルハルト・リヒター
1932年2月9日生まれ。
ゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter)はドイツの画家で、美術オークションの最大手「サザビーズ」では現役の作家としてその作品が最高額で落札されるほどの世界的な人気画家。
写真術と縁深い作家で、絵画の他にも、大型のガラスパネルをそれぞれ角度を変えて等間隔に設置することで見る人の視差を歪ませる「Grass Panelles」というインスタレーション作品など、人の「視界」に訴えかける作品を多く制作しています。
そうして、人間が目にする「イメージ」という概念を追求する人気画家であるリヒターは、鮮やかな色彩の「アブストラクト・ペインティング」の様式のアーティストとして大きな存在であり、また風景や新聞などの写真の模写を用いる「フォト・ペインティング」のような独自の様式も生み出しています。
そのように、誰か他者が作った様式の中だけで活動するのではなく、常に自分を主体として独自に絵画を発展させ続けているという点が、「ドイツ最高峰の作家」といわれる所以です。それどころか、リヒターは「20世紀で最も優れた画家」ともいわれるほどの、歴史に残る人気画家なのです。
キース・へリング
1958年5月4日
キース・ヘリングはアメリカのアーティストで、ニューヨークの路上でグラフィティー・アートを行ったことから一躍有名になった人気画家です。いま、グラフィティー・アートといえばバンクシーが有名ですが、名のあるストリート・アーティストとしてはヘリングに軍配が上がるでしょう。
ヘリングの画風はポップアートとしても人気で、ユニクロのTシャツにコラボデザインが出ることも。ニューヨークのストリート文化の一端を担っている人気画家であり、誰もが一度はその絵を見たことがあるのではないでしょうか。
ヘリングは決して学歴や経歴の輝かしいアーティストではなく、むしろ自ら芸術を探求するなかで同時代のアーティストと交流しながらアートを研究する「叩き上げ」の姿勢を好みました。その男気あふれる気質も、自由の国アメリカの人気画家を代表する理由になるでしょう。
惜しくも1990年にエイズで亡くなりましたが、いまだにグラフィティー・アートといえばキース・ヘリングといわしめるほどの人気画家です。その激動の人生と、作品の力強いイメージを感じながら鑑賞してください。
今知っておくべき!人気画家8人 まとめ
美術作品というのは、ただ私たちの目を楽しませたり、新しい見方を授けてくれるだけのものではなく、歴史や各国、各地の文化ととても強く結びついているもの。特に歴史の勉強をするときに、一緒にその当時の絵画を知ることで、時代の背景などをよりリアリティをもって垣間見ることができるでしょう。
また、「アート」というのは現代の日本人にとって難解なものだったり、縁遠いものと考えられていることもありますが、その実、美術の担い手は、私たちの考えていること、感じていることを言葉以外の手法で表現している貴重な存在だったりします。
たとえば、戦争にまつわる怒りや悲しみの感情は、当事者以外にとっては想像すら難しいものですが、その時代にまつわるアートを鑑賞することで、より深い感情移入ができるでしょう。アートは人と人をつなぐものであり、また人と人の記憶を紡いでいくものでもあるのです。
世界中の人気作家や自分のお気に入りのアーティストを見つけ、生活の中のひとときを、「遠くにある何か」に想いを馳せる時間にしてみましょう。