全て無断転載は禁じます。
banksy(バンクシー)は、その本名もその姿も知られていない、匿名のストリートアーティストです。
2003にはインスタグラムに投稿を開始するなど、匿名の活動家の割にはどこか人間臭いところも感じさせるバンクシーですが、今回、そのインスタに投稿された作品に切り込みます。
その作品だけではなく、ダークなウィット溢れるインスタ投稿を超個人的見解でベスト10をご紹介。
その投稿から、バンクシーの日常や正体は垣間見れるのでしょうか?まずはインスタグラムアカウントから見ていきましょう。
バンクシーのインスタグラムアカウントはこちら
バンクシーは、イギリス、ロンドンを中心として世界中で活動する神出鬼没の路上芸術家、また正体不明の覆面芸術家として知られています。おそらく、世界的に知られるアーティストの中でも、いま一番ホットな存在ではないでしょうか。「Mural(ミューラル)」という、壁にステンシル・アートという型紙を利用したグラフィティー・ペイントは今や、壁ごと道路から撤去され、アートコレクションの対象となるほどに人気。
「芸術テロリスト」とも言わしめるバンクシーの、世界中の路地や壁に突如として現れる社会風刺的なグラフィティーは、そうして時に物議を醸しつつ、バンクシーのダークユーモア溢れるアート、また政治的活動で世に知られていきます。同時に、「インスタ映え」のグラフィティーとして観光客や地元の人々から人気を集めるアーティストでもあります。
バンクシーは、無断でゲリラ的にその路地や壁にグラフィティー・ペイントを施すため、時に犯罪者として扱われたことも。そんなパンクで破壊的な活動で知られるバンクシーですが、2013年にはインスタグラムに投稿を開始するなど、案外身近な存在であることを感じさせます。
日本でもバンクシーの壁画が発見されたと一時期話題になりましたが、それらが本物である可能性は未だ不明。
2018年には、バンクシーはトリックスター的なつかみどころのない人物(またはグループ)としてすでに世界的に有名なアーティストとみなされていました。
最新のニュースで注目されたのは2019年10月にイギリスで開催されたオークション『サザビーズ』に出展された、額縁に入れられたバンクシーの作品『少女と風船』が突如として額縁に内蔵されたシュレッダーでバラバラに切り刻まれる…
…と思いきや、その破壊は途中で止まります。公式インスタグラムの投稿には「数年前、もしもオークションにかけられた時のために、密かに絵にシュレッダーを仕込んだ」と、どのようにして額縁にシュレッダーを仕込んだかのメイキング動画もアップしています。
フランスをはじめとしたヨーロッパやアメリカのニューヨークを中心とするハイ・アートシーンは、芸術と「金」とが強く結びついた、どこか鉄臭い世界です。オークションに集まった富裕層の目の前で、それまで一片のストリートアートでしかなかった「有名なバンクシーの絵」をシュレッダーにかけるという、そんな爛れた世界に一石を投じるためのアクションですが、なぜ途中で止まってしまったのか、という件で一時期話題になりました。
実は、その絵画は半分だけではなく全てがバラバラにされる予定であり、大金を握りしめて(比喩)押し寄せたアートを独占的に所有する富裕層に対し、競り落とされた作品をその場でぶち壊しにすることで一泡吹かせる算段でしたが、額縁に内蔵されたシュレッダーの故障でその目論見は半端に終わります。しかし、動画に映ったオークション会場の人々の表情からは、バンクシーの計画はほとんど成功であったといっても過言ではありません。
そんな動画も見ることができるバンクシーのインスタグラムアカウントはこちらです。
バンクシーは2013年から、常に話題を集めてきた自身のグラフィティー・ペイントを含んだ作品を、おそらくどんなファンやメディアよりも早くインスタに投稿しています。
サザビーズで起こったシュレッダー事件も、バンクシーのインスタ投稿はその日のうちに、まるで絵がシュレッダーにかけられたその場ですぐに動画を撮影し投稿したかのよう。今後のバンクシーの活動も、インスタをチェックしていればリアルタイムでいち早く見ることができるかもしれません。
【個人的お気に入り】バンクシーのインスタグラム内投稿ベスト10
ここから、筆者の個人的なバンクシーのインスタ投稿ベスト10を発表します。
Going, going, gone…
2018年10月6日のインスタ投稿。『風船と少女』がシュレッダーで切り刻まれた例のサザビーズのオークション中の投稿だと思われます。「いくぞ、いくぞ、いった…」というコメントから、バンクシーが当時そのオークション会場に潜みつつ「ピーッ」という警報音を響かせて作動するシュレッダーにより絵が破壊されているのを見て、したり顔をしているのが眼に浮かぶよう。
この『風船と少女』と呼ばれていた作品はバンクシーにより改めて「Love is in the Bin(愛はゴミ箱の中に)」と名付けられました。
ヴェネチア・ビエンナーレにて
2019年5月23日、ベネチアビエンナーレに押しかけたバンクシーが、露店の画商に扮して9枚の繋がった絵画を披露した時の映像の投稿です。コメントに「世界一名高く大規模なアートイベントなのに、どうしてか私は一度も招待されたことがない」と語られています。もちろん、これは半分ジョークでしょう。
今では名声を高めたバンクシーはもともと資本主義や消費主義に反抗する意思を持っており、商業にほど近いアートに関しては関わらなかったはずですが、そうして拗ねているようなところを見せるというのは、なんだかお茶目な印象を持たせます。
作品は、「水の都」といわれる古都ヴェネチアの運河に浮かぶ小舟が、巨大なフェリーに押しのけられているという構図の油彩画。動画では、地元の警官に立ち退きを告げられて店を畳む姿が見られます。
絆創膏が貼られた赤いハートバルーン
2013年10月7日のインスタ投稿。ニューヨーク、ブルックリン地区に残したグラフィティを撮影したものです。
赤い風船はバンクシーの絵によく現れ、愛と平和、または自由や希望の象徴として描かれます。このハートの風船はたくさんの絆創膏が貼られ、見るも痛ましい様子ですが、それでも萎れず、上昇していく風船が、愛という存在の強さを物語っているようです。
赤い風船の描かれたバンクシーの絵で最も人気が高いのは、ロンドンのウォータールー橋の壁に描かれた『風船と少女』と呼ばれているものですが、このハートバルーンの絵は風船単体で描かれており、観光客がそれに向かって手を伸ばして『風船と少女』を模して写真を撮るといった「インスタ映え」の人気スポットにもなっています。バンクシーのインスタ投稿の中でも目立ってキュートな写真です。
ワインのコルクに乗って飛ぶネズミ
2018年6月29日のインスタの投稿。バンクシーはネズミの絵をグラフィティーに多様しますが、こちらもそのネズミシリーズのひとつ。このコルクに乗って飛んでいるネズミの絵は、はじめはフランス・パリのレストランで発見されました。右下のシャンパンボトルから飛び出したコルクに、ネズミが乗って左上に向かって飛んでいる絵です。しかし、この投稿の写真のネズミは右を向いています。
実は、そのパリのレストランにあったネズミの絵は現在撤去されており、現代アートコレクターが壁ごと所有しているという話が。インスタ投稿にあるこのコルクに乗ったネズミの写真は、それとは別にモンマルトルで描かれたものです。
パレスチナの監視塔
2017年3月19日のインスタ投稿。イスラエルとパレスチナの境界にある監視塔をブランコの遊具のようにして子供達が遊んでいる、といった絵です。こちらは、バンクシーがガザ地区に潜入した際に壁にペイントしたイメージと同じですが、それと異なりこの投稿の絵はカラーのもの。
この絵は、実はバンクシーがパレスチナ自治区のベツレヘム地域に作ったホテルの内部に飾られているもの。ホテルの名前は「The Walled Off Hotel」といい、パレスチナ問題への社会的メッセージが込められています。ホテルの立地はイスラエル側との壁から5メートルほどしか離れていない危険な地域。ホテル内部のゴージャスな作りが、バンクシーの独特の皮肉を感じさせます。
凍りついた時間
2017年3月21日のインスタ投稿。写真の絵は印象派の絵画のような油彩画ですが、その中にはちぐはぐな存在が。
少女と2人の少年が穏やかな海に流れ着いた、iMacのパソコンユーザーにおなじみの「読み込み中」の虹色のカーソルのようなマークを訝しげに見つめます。
この絵画には「元ネタ」があり、それはブランドフォード・フレッチャー(1858 – 1936)というイギリスの画家の「Sailing Sail」という絵画です。フレッチャーは日本でほとんど知られていない画家であり、なぜバンクシーが目をつけたのかは不明ですが、元の絵ではおもちゃのボートを浮かべる代わりに、バンクシーは「読み込み中」のカーソルを置くことで、まるで絵画の中に吹いていそうな海風まで停止しているように見えるというユーモアのあるトリックを使っています。
ステンシルアートとネズミ
2018年6月29日の投稿。ステンシルアートの型を切り抜くカッターを持った一匹のマスクで口を覆ったネズミが、辺りを見回している図のグラフィティーです。
まるで、ステンシルアートの技法でグラフィティー・ペイントをするバンクシーそのものを示唆しているかのよう。インスタにあるバンクシーのコメントには「1968年のパリでの蜂起から50年。モダン・ステンシルアート生誕の地」とあります。
ステンシルアートの祖といわれるフランス人のアーティスト「Blek Le Rat(ブレック・ル・ラット)」へのオマージュとなる作品。パリ、ポンピドゥセンターの近隣で見られます。
KEEP OU
2019年6月12日のインスタ投稿。ロンドンのヒースロー空港のゲートに現れたペインティングの写真で、インスタ投稿により『Archway salvaged from Heathrow(ヒースロー空港から救出された入り口)』というタイトルが判明します。
シャッターに描かれた「KEEP OUT(立ち入り禁止)」の「T」の文字が欠けており、どこにあるのかと思えば、下部でネズミがその「T」をハンマーのように振りかざし、シャッターに付いている鍵を壊しているという絵となっています。
この絵はバンクシーによるイギリスのEU離脱、いわゆる「Brexit(ブレグジット)」への風刺を孕んだ新作。EUからイギリスを訪れた乗客を締め出す税関のシャッターを利用し、イギリスのEU離脱を批判しています。
コンクリートの懺悔室
2013年10月12日の投稿。ニューヨーク、マンハッタンのクーパー・スクエアに現れたこのグラフィティは、破棄されていたコンクリートの廃材を利用し、あらかじめそのコンクリートに空いていた四角い穴を「窓」に見立ててその奥に神父の図をペイントしたもの。
このインスタ投稿のバンクシーのコメントには「manhattan. Concrete confessional(マンハッタン。コンクリートの懺悔室)」というタイトルと思われる言葉が残されています。実はこの投稿の写真からは伺えませんが、このグラフィティーの左側に懺悔をする人も、同じようにコンクリートの四角い窓越しに描かれていました。現在は撤去されてしまったという、バンクシーの幻の作品です。
羊たちの沈黙
2013年10月12日に投稿された、の牛や豚、鶏、羊のぬいぐるみが冊から顔を出して何か言いたげな表情をしているように見える写真。牛のぬいぐるみがいい顔をしています。
この投稿には「羊たちの沈黙。屠畜場の運搬トラックがミートパッキング・ディストリクトへ移動して、次の二週間は街中へ」というバンクシーのコメントが。「ミートパッキング・ディストリクト」とは、ニューヨークにある商業地区のことです。この投稿があった前日の10月11日には、このぬいぐるみが積まれたトラックがミートパッキング・ディストリクトを駆け回っていました。トラックはたびたび、精肉店の前で停車したといいます。
このインスタ投稿の元は『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』という映画で全貌が見られます。