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2018年ロンドンオークションでのシュレッダー事件で有名なアーティスト

Stories バンクシー
【考察】東京に現れたバンクシーのネズミは本物か、またその意味とは
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バンクシー(banksy)は、いまおそらく世界中で一番名前の知られているアーティストです。その姿も本名も不明の神出鬼没のストリート・アーティストで、2018年にサザビーズのオークションにかけられたバンクシーの絵は1.5億円で落札されるほど。

そんなバンクシーの人気モチーフであるネズミのグラフィティーが東京に現れた!と2019年の1月に大きな話題を呼びました。現在都庁に保管されているというネズミの絵は本物なのか、偽物なのかと物議をかもした「築地のネズミ」について考察します。

バンクシーとは

【バンクシー(banksy)】は、イギリスのブリストルから活動を開始した路上芸術家。その生年月日や本名、また個人のアーティストかグループであるのかも明かされておらず、世界各地の路上や壁、橋梁に「グラフィティー・アート」もしくは「Mural(ミューラル/壁画)」と呼ばれる絵を残しています。

バンクシーの活動が知られるようになったのは2005年からで、作品を世界各地の美術館に無断で展示したことが始まり。バンクシーが覆面アーティストとして名を明かさないのは、その活動が反政府的で犯罪性を含んでいるから。そもそも、無断で公共の路地などにグラフィティー・アートを描くのは器物破損の軽犯罪なので、本来は政府も怒るべきものなのですが、今や経済効果を生む「お土産」とみなされ歓迎される始末です。

バンクシーが残す絵のほとんどはステンシル・アートと呼ばれる型紙を用いたスプレーペイントで、バンクシーはネズミの絵をそのグラフィティーに多用しています。ネズミのモチーフは、1980年代のフランス・パリで「Blek Le Rat(ブレック・ル・ラット)」というアーティストが町中にネズミの絵を描いたことのオマージュであると考えられ、パリの近隣ではバンクシーのネズミのグラフィティーをいくつか見ることができます。

バンクシーは本来、戦争や紛争、差別、資本主義や消費主義といった世界の中でも一握りの人が富を得る社会の構造に反発しており、また美術館ではなく、ホームレスから富裕層まで誰もの目に入る路地にグラフィティーを描いていた存在。その絵には痛烈な社会風刺などの批判的なコンテクストが含まれ、バンクシーの絵が発見されるたびにそのメッセージを読み取ろうと、インスタなどで話題となりました。

反骨精神、アナーキズムがその活動の根底にあるバンクシーですが、活動はグラフィティー・アートだけではありません。2015年には「パレスチナ問題」への切り込みとしてパレスチナのガザ地区に潜入し、瓦礫の中に壁画を描くほか、イスラエル側の壁から5メートルほどしか離れていない危険な地区にホテル『THE WALLED OFF HOTEL』をオープン。そのホテルは、「世界一眺めの悪いホテル」といわれています。

また、バンクシーは同年8月22日から9月27日までの期間限定でイギリスのサマセット州ウェストン・スーパー・メアにて開かれたテーマパーク『ディズマランド』を監修します。2.5エーカー(約1万平方メートル)の敷地に現代アート作品が点在するアートフェスのようなかたちの展示がメインであり、その名の通り「ディズニーランド」をもじったそのテーマパークは、世界中で、戦争や紛争を知らない一部の人だけが楽しめるテーマパークという存在を皮肉をもって表現したもの。

『ディズマランド』のアトラクションは、ぱっと見ディズニーランドのような風貌ですが、実際の中身は痛烈な皮肉や批判で満ちた闇の世界であり、シンデレラの死体の作品など、子供なら悲鳴をあげて逃げ出しそうな印象。キャストも夢の国の住民とは正反対の、無気力で不親切な、まるで地獄の住民のよう。

このランドに展示された現代アート作品の中には、無名の作家の作品も多数ありましたが、対照的にコンセプチュアル・アートの世界で名高いダミアン・ハーストの作品もあったとか。現在はすでに撤収されたこの『ディズマランド(Dismal=Land/退屈な世界)』ですが、今後フランス北部で再オープンするという噂もあります。

2018年オークションで1.5億で落札!その直後に起きたシュレッダー事件とは

このように、風刺的なグラフィティー・アートだけではなく、他のアーティストの協力や信頼を集める多方面の活動にて、いま世界で最も注目されるアーティストであるバンクシー。2018年にロンドンで開催されたサザビーズのオークションでは、競売にかけられたバンクシーの絵画が落札された瞬間にシュレッダーで切り刻まれるといった「意図的な事故」でまた世間を騒然とさせます。

そして、2019年1月12日には小池百合子東京都知事がツイッターにて、東京都港区の路線ゆりかもめ日の出駅付近にあったバンクシーのものと思われるネズミの絵とのツーショット写真を公開したことから話題になりました。しかし、そのネズミが本物のバンクシーの作品なのかどうか、国内で物議を醸しました。

東京に現れたバンクシーのラット(ネズミ)は本物か

東京に現れたバンクシーのラット(ネズミ)は本物か
バンクシーの絵、といわれて脳裏に浮かぶのは、風船とネズミの絵ではないでしょうか。特にその二つはバンクシーが壁画に多用するモチーフであり、もし道を歩いている時に壁にその絵が現れたら、多くの人はバンクシーの作品の可能性を考えるでしょう。

日本にある、バンクシーが描いた「かもしれない」といわれているネズミのグラフィティーはいくつか目撃されています。しかし、そのほとんどが偽物で、ただバンクシーの手法を真似たものである、ということはこれまで様々になされてきた考察から明らかになっています。本物に近い図像も発見されていますが、真偽のほどは不明。

その日本で目撃されたバンクシーのグラフィティーと思われるもので一番知られているのが、ゆりかもめ日の出駅付近のネズミの壁画、通称「アンブレラ・ラット」または「築地のネズミ」。小池百合子東京都知事がツイッターに画像をアップした日から、テレビやラジオ、ネット上でも「本物だ」「偽物だ」と、その真偽をめぐって議論がされました。

その話題騒然となったバンクシーのネズミの絵ですが、いま一度ほんとうにバンクシーの作品であるのかを考察してみましょう。

「ついに日本にもバンクシーが現れた」と話題騒然となったネズミのステンシル画ですが、小池百合子氏のツイッターが物議をかもした当初は「これは偽物ではないか」と考えられていました。その理由といえば、

  • バンクシーの絵にしてはメッセージ性に欠けるのではないか
  • 風雨にさらされて劣化したとはいえ、クオリティーが低い
  • 政府関係者による独占的な態度に対し、むしろ偽物であってほしいという願望

まず、バンクシーといえば、そのグラフィティーには時に痛烈なメッセージ性があるものでした。特にバンクシーが潜入し壁画を制作したガザ地区のものは、戦争に対する批判、子供達が受ける被害など、見る人の意識に訴えかけるもの。バンクシーの手がける作品は基本的に、反消費社会、反金融資本主義、環境問題や戦争についての問題提起を呼び起こすコンセプトアートです。

しかし、ゆりかもめ日の出駅付近にひっそりと現れた傘をさすネズミの絵は、いまいちそのメッセージ性を読み取りにくいものだったために、バンクシーの作品であることへの疑問が出てきました。

また、小池百合子都知事がツイッターにこのネズミの絵とのツーショットを上げた時にはだいぶ劣化が見られ、バンクシーの作品としては迫力に欠けるという点も疑問点に。

そして、総合的に富裕層優遇の社会に対してアンチな態度をとってきたバンクシーの絵を独占的に保管し、アピールに利用する政府関係者に対する反抗的な気持ちから、それが偽物であってほしいという意見もあったように思われます。

しかし、これらの意見に対して、このバンクシーの絵は本物であるという証拠がいくつも残っているという事実も。実は、この「アンブレラ・ラット」は2003年からゆりかもめ日の出駅付近にあったものだと判明しています。

その証拠に、バンクシーの公式サイト、そして作品集は、このネズミと瓜二つの絵の写真が掲載されています。画像が左右で反転されているためにややわかりづらいですが、公式の写真を反転して、東京に現れたネズミの絵と並べてみると、合致していることが明らか。

公式にも画像があるということで、このネズミの絵はほとんどバンクシーの作品だと考えていいでしょう。しかし、バンクシーのグラフィティー・アートはステンシルという型紙を使ったもの。公式ページから写真をDLし、切り抜いてステンシルにしたものを他人が勝手に使用した可能性も捨て切れません。

実際に、この同じネズミのステンシルを利用したグラフィティーは、大阪、香川など日本各地で見られます。ステンシル・アートはコピー可能なもので、型紙さえあれば誰にでもペイントでき、またネット上に画像があるため誰にでもステンシルを作成可能。よって、「アンブレラ・ラット」も100%バンクシーの手によるものだと、断言はできないのです。

真偽はともあれ、このネズミに関する騒動を含めてバンクシーの作品である、という意見もあり、バンクシーもこれに関して一切コメントを残していません。もしかすると、本当は本人の作品ではなくとも、この一連の流れを放置することで、あえて日本におけるアートと政府の関わり方を露わにしたというアクションを起こしたのかもしれません。

また、肝心なコンセプトを考察するとしたら、このように考えられます。実際のところこのネズミは「ドブネズミ」であり、病原菌を撒き散らす害獣として忌み嫌われる存在。バンクシーによってネズミは「社会の敵」としてのアイコンとして描かれているという説もあり、そのドブネズミが傘をさして降る雨を避けるほど、東京の空気は汚れているという皮肉なのかもしれません。

しかしながら、バンクシーは覆面アーティストで、一体「誰」がその活動をしているのかは全くの不明。バンクシーと思われる人の目撃情報はあっても、バンクシーはそもそも個人であるか団体であるかも明かされていません。

世間には、「バンクシー」はいちアーティストの固有名詞のように扱われていますが、今回のこの一連の騒動から考察するに、コピー可能なバンクシーのステンシルを利用して世間に一石を投じるグラフィティー・アートを施す人の全てがバンクシーである、といってもおかしくはないのです。

どこでネズミをみれる?

どこでネズミをみれる?
2003年に東京に現れてからひっそりとそこに存在し続け、2019年1月に一気にその存在が広まったバンクシーの「アンブレラ・ラット」。バンクシーの絵はその描かれた場所にあってこそ価値があり、今もなおゆりかもめ日の出駅付近に存在する…と言いたいところですが、今現在は東京都に回収されてしまったため、その場で見ることはできません。

「世界的に有名なアーティストの作品だから」という理由で回収され、2019年4月25日から5月8日の間には東京都庁第一本庁舎2Fロビーで一般公開された時には、バンクシーのグラフィティーを一目見ようと、来場者が押し寄せ大行列を作るという顛末に。

その一般公開時の来場者の意見として、「公共物への落書きを都が認めるのはダブルスタンダードである」「環境問題に対する批判のこもった作品なら、場所を都庁に移してしまうのはいかがなものか」という批判もありました。とはいえ、初日には約2000人もの来場者が押し寄せるという人気ぶり。

しかし、現在は都庁により保管されているため、見ることができません。バンクシーのグラフィティーは描かれた場所にあってこそのものであり、本来価値をつけて売買するようなものではないのですが、各国のコレクターにより壁ごと撤去されて個人で保管されるという事態が発生することがあります。

ただ、その地区の自治体がその土地にあるバンクシーのグラフィティーを保管するというのはまだ理解できますが、その場から取り払って個人蔵にしてしまうのはナンセンスなこと。バンクシーの「落書き」はまごうことなきパブリック・アートであり、誰が所有する作品でもなく、見る人すべてにユーモアをもって今起こっている問題を投げかけるものなのですから。

今後、都庁がバンクシーのものと思われるネズミの絵を公開する予定はありません。しかし、同じステンシルのグラフィティーと思われる作品は大阪の阪神電鉄高架下、および香川県高松市のスケートボード場に確認されています。

まとめ

まとめ
バンクシーのと思われる東京都庁が保管する「アンブレラ・ラット」は、公式画像と比較してほぼ間違いなくバンクシー公式のグラフィティーである、と考えられます。しかし、それは「同じ絵のステンシルを用いられている」という証明にしかならないのもまた事実。

都庁はその真偽の確認を取るためにインスタグラム経由でバンクシーへ問い合わせをしましたが、未だそのレスポンスはないといいます。公式で認められない限りは、真実のほどは「限りなく白に近いグレー」と言わざるを得ないのではないでしょうか。

ただ、バンクシーの反骨精神やアンチのこもった作品を、一般のコレクターではなくその批判の対象である国が大切に保管しているという構図はまるで皮肉そのもの。その一連の流れから、本物であると返答しないとはいえ、否定もしないというのが、バンクシーなりの答えなのかもしれません。

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