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第74回行動展(2019年)彫刻部門で、最優秀賞にあたる行動美術賞を受賞された内藤早良さん。
内藤さんといえば、金属で海の生物を表現する作品が特徴的です。行動展の受賞作品である「Make Way」も、ウニやクラゲが道をつくっているイメージとのこと。
今回は、内藤さんが金属に興味を持ったきっかけや、海の生物をつくる理由など、作品づくりの裏側をインタビューしました。
目次
行動展に4年連続入選、2019年は初の行動美術賞を受賞
1992年東京都生まれ。
女子美術大学芸術学部美術学科立体アート専攻、東京藝術大学大学院美術研究家彫刻専攻修了。
都内で中学校の美術講師を勤めながら、展覧会への出品や個展の開催などアーティストとしても精力的に活動している。
まずは、行動展の行動美術賞受賞おめでとうございます。
内藤:ありがとうございます。行動展には学生の頃から出展していて、今年で7年目です。入選は4回目で、今回は初めて行動美術賞を受賞させていただきました。
行動展とは?
行動美術協会が毎年秋に開催する公募展。絵画部と彫刻部の2部門があり、入選作品には、行動美術賞、会友賞、新人賞、奨励賞などが贈られる。
内藤:普段は、平日に中学校の美術の授業を受け持ち、週末にアトリエで作品をつくっています。今回の受賞作品は、夏休みを利用して制作しました。
金属を扱う時は溶接があるため、夏でも長袖を着て制作します。さらに、ガスボンベを使うので通気性が良い場所で作業する必要があり、暑くてもクーラーは使えません(笑)
夏の暑い中、長袖!作品のかわいらしさからは想像できない過酷な制作過程を経て完成した今回の受賞作品ですが、出展にあたり意識したことはありますか?
内藤:会場の広さと作品の大きさのバランスや、行動展のコンセプトは気にしました。行動展は会場(国立新美術館)が広いので、小さすぎないように、存在感のある大きさでつくりました。
また、行動展は「何に見えるか分からないもの」つまり抽象的な作品が評価されます。「Make Way」も、私自身は海の生物が道をつくっているイメージで制作しましたが、色んな見え方があると思っています。どんな風に見ていただいても構わないですし、見る方が自由に見てくだされば嬉しいです。
「未知だから想像力が膨らむ」「気持ち悪さがかわいい」海の生き物は、自分の子供
なぜ海の生物を制作するのでしょう?
内藤:興味があるんですよね。深海には、人間の想像を超えるような未知の生物もいるかもしれません。そう思うとインスピレーションが掻き立てられるし、自由な発想で制作できます。
あと、海の生物はかわいいから!例えばヒトデとか、ぐにゅぐにゅ動いたりしてちょっと気持ち悪いですよね。でも「生きてる証拠なんだな、この気持ち悪さがないと生きていけないんだな」と思うと、かわいいなと思えて(笑) そういう海の生物の独特の気持ち悪さが愛しくて、「この気持ち悪さをどう表現できるだろう」と探りたくなるんです。
ただ、はじめから「この生物を作ろう!」と思って制作しているわけではありません。金属を溶接しているうちに、「この形、あの海の生物に似てる!」と感じる瞬間に出会います。
作品は、アーティストによってつくり方が違います。最初に設計図を用意して、設計図に沿って制作していく方もいますが、私の場合は金属を触りながら形を決めていきます。
そうしてできた作品は、私が力づくで生んだ子供みたいなものですね。
金属ができれば、アートの表現の幅が広がる
素材の話になりましたが、内藤さんが金属という素材にこだわる理由はありますか?
内藤:高校で油絵、大学1~2年で石や粘土、紙などを経て、大学3年生から金属を専門にしています。金属に注目した理由は、色々な素材を経験する中で「金属ができれば何でもできる」と思ったため。
金属の彫刻をつくる時に使う機械や道具で、石や木など他の素材も彫ることができます。つまり、金属を扱うことができれば、他の素材でも制作できるということです。
金属から始めることで、今後の作品づくりの可能性を広げられるのですね。
内藤:色んなものがつくれるようになりたいと思っています。例えば年を取ったら今よりもつくれる作品が小さくなるかもしれないし、家で制作することになるかもしれない。でも、状況や環境に応じて形を変えながら、作品をつくり続けたいです。
そのために、今は金属を使って色々試している感じです。「別の素材でつくったらどう見えるかな?」とか「色を塗ったらどうなるかな?」とかにも興味があるので、素材を変えたり、塗装したりしながら、作品が進化していくかもしれないですね。
様々なアプローチを身に付け、作品づくりを続けたいという内藤さん。これから作品がどのように変わっていくのか、そして今後どのような作品が生まれるのか楽しみです。