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『オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した 12人の画家たち』が、2019年9月21日(土)~2020年1月13日(月・祝)まで、横浜美術館で開催されます。
横浜美術館開館30周年を記念した本展では、フランス・パリのオランジュリー美術館から来日した約70点を楽しむことができます。画商ポール・ギヨームらが収集した同館所蔵の印象派とエコール・ド・パリの作品の数々は、ヨーロッパ屈指の絵画コレクションのひとつに数えられています。
これは是非とも見ておきたい展覧会ですね。
目次
まずは基礎知識、オランジュリー美術館とは

Date: 1892 / Location: Musée de l’Orangerie, Paris, France
オランジュリー美術館は、パリのセーヌ川岸に建つオレンジ温室を改修した瀟洒な佇まいの美術館です。
このオレンジ温室を改修した美術館は、元々はルーブル宮殿の西側に隣接した、テュイルリー宮殿のオレンジ温室でした。美術館として整備されたのは、モネの《睡蓮》の連作を収めるため。1927年に改修されました。
そして主な所蔵作品は、印象派とポスト印象派の作品。画商ポール・ギヨームによって築かれた、印象派とエコール・ド・パリの作品コレクションです。
私邸を美術館にするという夢を果たせずこの世を去ったギヨーム。その後の作品収集は妻ドメニカと、二番目の夫ジャン・ヴァルテルが行います。
1965年からはフランス国家に寄贈された、「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨームコレクション」の散逸を防ぐために保護に当たることになりました。
オランジュリー美術館はヨーロッパ屈指の絵画コレクションを誇る美術館です。収蔵作品にはセザンヌ、マティス、モディリアーニ、モネ、ピカソ、ルノワール、シスレー、スーティンなどの、19~20世紀当初に無名であった彼らの作品も多く残されています。
日本との大きな接点は1998年。東京・東急Bunkamuraにて、当美術館所蔵の『ジャン・ヴァルテル&ポール・ギョーム コレクション』の油彩画の、公開展覧会が開催されました。
今年の展覧会では、このオランジュリー美術館からの作品の貸し出しが21年ぶりに実現します。
印象派の特徴と代表的な画家

Date: 1875 / Location: Musée d’Orsay, Paris, France / Dimensions: 67 x 56 cm
「印象派」という言葉は聞いたことあるでしょうか。学校で習ったり美術館でよく展覧会をしているから、知っている方も多いと思います。ここではそんな「聞いたことはあるけど、なんとなくしか分かっていない」という方のために、印象派について説明していきます。
まず「印象派」とはどんな画家たちのことを言うのか。ざっくり言うと「表現の自由を求めた前衛的な芸術運動をする集団」のことです。印象派の動きは19世紀後半から、フランスにて広がっていきます。
さて、そんな自由な表現の集まりについて詳しく言うと、「実際に目に見えたものを忠実」に描こうとする人々のことを総称して印象派と呼ばれました。
いままでの絵画表現では歴史画や宗教画、構図がきっちりと決まったものが、絵画作品として扱われてきました。そんな固定観念に対して、「目に見えるものの色には、様々な色が複雑に散りばめられているじゃないか。」と新たな主張をしたのが印象派です。
そして彼らは戸外にカンヴァスを持ち出して光の一瞬の美しさを描こうと試みます。
印象派の作品は、光の変化や空気感などの一瞬の印象を再現した作品です。なので鮮やかな色彩と、素早い筆致で捉えることによる大胆で自由なタッチが特徴的。この全く新しい画風は、それまでの絵画と比べると非常に明るいです。

Date: c.1905 / Location: Musée de l’Orangerie, Paris, France / Dimensions: 114 x 163 cm
また印象派の作品には、当時は低俗とされ、絵画として評価されることのなかった風景画や静物画、農民や普通の暮らし、街並みを描いた風俗画などが多く描かれています。
印象派の成り立ちを少し掘り下げると、サロンや公募展といったワードが出てきます。美術用語で「サロン」は、フランスにおける「官設展覧会」を指します。当時のフランスでは、サロンと呼ばれる政府主催の公募展に飾られることで画家として認められていました。しかしサロンに飾られるには審査があり、評価対象は先述した固定観念たっぷりの典型的な絵画ばかりでした。
その保守的な体制に反発した一部の画家たちは、自分たちでお金さえ出せば誰でも作品を飾ることができる前代未聞のグループ展を開きます。それが印象派の始まりです。
当然ながら、印象派は当時ではあまりに突出した表現だったので批評され続けます。そして批評家からも散々なことを言われてしまいます。「印象派」という呼ばれ方は、印象派展で飾られていた絵を見た批評家が、「これは印象に過ぎない」といった皮肉がもとになっているのです。しかし印象派の画家たちは活動を続け、ルネサンスから続く伝統的な美術表現に終止符を打つ役割を果たしていきます。
印象派に代表される画家には、マネやモネ、ルノワールといった後世に名作を残す者が多くいます。
例えばマネは「印象派の父」と呼ばれ、印象派の画家に多大な影響を残しました。
そしてモネは印象派のなかで最も中心的な存在です。
印象派の画家はそれぞれ異なる表現や方向性を確立していきました。しかしモネは生涯、印象派の本質的なテーマである光について研究していったのです。
ルノワールは印象派としてかなりの人気と知名度を誇る画家です。
印象派の画家との交流は初期にはありますが、その後は独自の絵画表現を研究するため別々の行動をとります。
“ルノワールとパリに恋した12人の画家たち”の見どころ

Date: 1921 / Location: Musée de l’Orangerie, Paris, France / Dimensions: 50 x 61 cm
横浜美術館開館30周年を記念した本展では、オランジュリー美術館が所蔵する146点の絵画作品のうち、名作約70点が来日します。オランジュリー美術館ではコレクションのほとんどが常設展示されています。そのため館外にまとめて貸し出しをされることは極めて稀です。
1998年に同館で改修工事が行われ、その時初めてコレクションが日本に貸し出されました。今回も同様に、オランジュリー美術館では再度の改修工事が予定されており、21年ぶりのこの珠玉のコレクションの来日が実現しました。
オランジュリー美術館の印象派とエコール・ド・パリのコレクションは、「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」と呼ばれています。このコレクションは、近代美術史を知る上では外せない名品144点で構成されています。今回来日する70点のなかには、印象派の巨匠ルノワールをはじめ、セザンヌ、モディリアーニ、マティス、ドラン、ローランサン、モネ、ピカソ、ルソー、シスレー、スーティン、ユトリロ、ヴァン・ドンゲンの13作家が含まれます。どの作家もパリを愛し芸術に魂を捧げた人ばかりです。

Date: 1892 / Location: Musée de l’Orangerie, Paris, France
特に注目したいのは、ルノワールの代表作《ピアノを弾く少女たち》です。この作品はルノワールの作品の中でも最も有名なもののひとつであり、教科書で見た!という方も多いでしょう。オランジュリー美術館のこの愛らしい作品は、晩年までルノワールのアトリエに保管され、作家没後の 1928 年に画商ポール・ギヨームが収集したものです。
またオランジュリー美術館に秘められた、画家と画商の物語を垣間見ることができるのも本展の醍醐味と言えるでしょう。
そして、なかでも本展では、コレクションをめぐる画商のポール・ギヨームと妻ドメニカの物語に注目してほしい。オランジュリー美術館の所蔵品の核となるコレクションには、画商の夢と妻の思いが背景にあります。
画商であるギヨームは、若き才能が集まる20世紀初頭のパリで画商として活動する傍ら、自らもコレクターとして作品を収集しました。彼は、既に評価の定まった画家たちだけでなく、当時無名だった若い作家たちも画商として積極的に支援したのです。そして、自分の美意識にかなった作品を収集し、美術館をつくることを夢見ていました。
しかしギヨームは若くして亡くなってしまいます。その後、妻ドメニカは有名な建築家ジャン・ヴァルテルと再婚します。彼女はギヨームの遺志を受け継ぎ、最終的に「ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨーム コレクション」として、2人の名前を冠することを条件にフランス国家に譲渡しました。そんな数奇な運命を通して、本展ではコレクターの美術館設立への夢や、画家たちとの友情の物語が軸になっているのです。
この貴重な機会にて、画商ポール・ギヨームの審美眼が見出した、世界中から愛される名品の数々を堪能したいですね。
横浜美術館のアクセス
- 所在地:〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3丁目4番1号
- 営業時間:10:00~18:00
- 休業日:木曜日
- 電話番号:045-221-0300
- 地図:Googlemap
- 最寄り:みなとみらい線(東急東横線直通)「みなとみらい」駅〈3番出口〉から、マークイズみなとみらい〈グランドガレリア〉経由徒歩3分、または〈マークイズ連絡口〉(10時~)から徒歩5分。
まとめ
19世紀後半のフランスで、王侯貴族や国家といったパトロンを持たず、独自の活動をし続けた印象派。そんな西洋絵画の常識をひっくりかえしてしまった画家のグループと、当時正当な評価を得なかった印象派の彼らを、己の審美眼と情熱で支えた画商。紆余曲折を得た様々な背景を通して、画家と画商が作り上げた美術のロマンを、この展覧会で是非感じ取ってほしいと思います。