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東京都美術館が開催するロンドンコレクションの印象派絵画

特集
コートールド美術館展の見どころはここ
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ロンドン・コートールド美術館は世界有数の美術研究機関・美術館。質の高い印象派・ポスト印象派のコレクションは世界的に知られています。

そのコートールド美術館のコレクションがついに来日。東京都美術館で開催されるコートールド美術館展をより深く鑑賞するための知識、そして美術館展の見どころについて解説します。

コートールド美術館とは

コート―ルド美術館の外観
コートールド美術館(Courtauld Gallery)とは、イギリス、ロンドンにあるアートギャラリー。ロンドン大学付属コートールド美術研究所の展示施設で、サマセットハウスという新古典主義建築の中に位置します。

コートールド美術館は、1932年にイギリスの実業家サミュエル・コートールドの印象派・後期印象派のコレクションがロンドン大学に寄贈したことをはじまりとして設立されました。比較的小規模な美術館ですが、そのコレクションの質の高さで知られています。

現代では数多くのファンを集める印象派ですが、コートールドが収集していた当時はまだ注目されていなかったとか。コートールド研究所は、サミュエル・コートールドの意思である「美術作品の保存と、美術史研究のアカデミズムの一体化」を指標としています。

印象派の研究機関としては世界随一で、その印象派コレクションも世界有数のもの。特にセザンヌ、ゴーギャンはイギリス国内で最大の作品数を保持します。コートールド美術研究所は、制作の背景や科学調査により印象派、そして後期印象派の作品を研究ながら、その詳細な内容をギャラリースペースにて公開。教育関連機関のたちならぶサマセットハウスを代表する美術研究機関として高い評価を得ています。

今回のコートールド美術館展は、そのコートールド美術館の施設が改修のため2020年まで2年間の休館をするというタイミングで、コレクションの貸し出しが実現しました。コートールドのコレクションが来日するのはおよそ20年ぶり。この機を逃すと、日本国内でこの印象派コレクションを見られる機会はしばらくないといえるでしょう。

印象派・ポスト印象派を解説

美術鑑賞は、その絵画の内容を深く知ることでより多くの発見を得られます。そこで、今回のコートールド美術館展の中心となる分野である印象派、そしてポスト印象派について解説。美術の歴史のなかで、それらがどんな芸術運動だったのか、その特徴について掘り下げましょう。

印象主義運動の起こり

19世紀、ヨーロッパではフランス革命の影響により自由主義が広まります。日本は黒船来航の時代。フランス革命は芸術家の社会にも影響し、その保守的な美術界を逸脱し、王侯貴族や国家の芸術アカデミーにも縛られない新しく自由な芸術が生み出されようとしていました。それが印象派、印象主義の「火種」となります。

同時期のヨーロッパでは、ほかにも伝統主義やアカデミズムからの脱脚を目指した芸術家たちが蜂起していました。ドイツ語圏では、それまでの保守的な美術会から分離するという意味での「分離派」という運動が知られています。印象主義運動も、その分離派運動と活動の意義を近しくするものです。

しかし、なぜ印象派は「分離」や「独立」といった名ではなく「印象」といわれるのでしょうか。それは、実は元は揶揄の言葉でもあったのです。

クロード・モネをはじめとする今では印象派と呼ばれる作家たちは、フランス、パリの保守的なアカデミー美術展覧会を主催する「サロン・ド・パリ」に反旗を翻し、画家たちで独立した展覧会を開いたことが始まりですが、まずは「サロン」の展覧会の審査員が不合格とした作品を集めて「落選者展」が開かれたのが大元の始まり。

印象派の主たる人物としてエドゥアルド・マネがいます。マネの、伝統的な手法を捨て、コントラストを鮮やかに構成した絵は当時のアカデミーの画家たちに受け入れられず、「サロン」はマネの作品展示を拒否しました。そうして開かれた「落選者展」の画家、そしてマネに賛同し、新しい美術の考え方を広めようとした作家たちが開いたのが問題の展覧会です。

その1874年に開かれた展覧会に出展したモネの『印象』と名付けられた絵画は、とりわけ批評を浴び、その展覧会に集まった、アカデミズムに反抗する画家がまとめて「印象派」といって嘲笑の的とされます。印象主義運動の名前は、この事件をきっかけとしたもの。今では誰もその絵画の素晴らしさを疑いませんが、その当時、新しい表現に踏み切った画家たちの「印象派」という呼ばれ方は、悪口のようなものなのです。
印象派マネの「日の出」

しかし、停滞していた保守的な美術界に改革をもたらしたその「印象派」は、フランスに巻き起こった「自由」と新たな芸術を作り上げます。マネやモネをはじめとする印象派の画家たちは勝利を勝ち取り、その運動の名前を誇り高いものとして後世に残しました。

印象派が目指したものとは

印象派が台頭するまでのフランスの美術家は、宗教画や王侯貴族の肖像画など、依頼をされて制作をする、いわば職人のような仕事をしていました。制作されたのはおおよそ権力を誇示するための絵画で、伝統様式という「ルール」に則った絵画制作は「創作」ではありません。

つまりは、19世紀まで、美術は「個」を表現する手段ではなかったのです。現代では「美術」は作家個人の経験や感情、培った独自の技法であらゆる表現を試みますが、この時代はそのような自由はありませんでした。停滞した伝統主義と、凝り固まったパトロンの趣味から、画家はお金のために絵を描くといった風潮になり、その空気は画家の自尊心をなくしていきます。

その抑圧を打ち破ることが、まず印象派のひとつの目的でした。印象主義運動を通して、ヨーロッパの芸術は、作家が個性を殺して伝統技法に従ってするものではなく、個人それぞれの手法で仕上げる「表現」となりました。批判にさらされながらも勇気を持って信念を貫いた、孤独と戦い抜いた人たちはいま、ヨーロッパ美術史に革命をもたらした芸術家として知られています。

19世紀ヨーロッパではパリが「美術の都」として君臨しており、各地から芸術家たちがそこに集まっていました。そうして出自の異なる人たちが昼夜カフェに集い「美術とは何か」ということを議論し、もはや誇りの無くなった保守的な美術から新しい美術の世界を切り開いたのです。

そして、印象派のもうひとつの特徴は、その芸術家のそれぞれの絵に現れます。それまでの絵画の多くは、室内にいる王侯貴族などの人物を描いたもの、また聖書の物語などをモチーフとしたものが主流で、固定された光源と理想化された人間の姿など、「こうあるべき」ものが描かれてきました。

しかし、印象派の絵画では風景画などの明るい光の下に描かれる絵画が主流のテーマに上がってきます。「こういう形をしているはずだ」「知っている形を描く」という、知識を基にしたデッサンではなく、印象派は「その瞳に直接飛び込んでくる映像」を「作家個人のセンス」で描くことを是とました。

印象派の絵画に特徴的な、絵筆の跡を残した、色彩溢れる画面は、まるでその時、その場で画家の目に入った光が、その絵筆から作者の感情を通して私たちの網膜に送られてくるかのよう。「理想」よりも「そこにある現実」を切り取り、感情をもって光を捉え表現することが、伝統を逸脱し自由な表現を望んだ印象派絵画の真髄なのです。

印象派とポスト印象派の違い

エドゥアルド・マネ、そしてクロード・モネから始まる印象派の画家たちは、自分たちの感受性を頼りに絵筆を走らせて、時には未完成の部分を残し、絵を見る人に「想像の余地」を残します。そうしたいくつもの試みを実践する印象派の時代、フランスにあらゆる文化が流れ込みます。日本の浮世絵の影響「ジャポニズム」もそのひとつ。
日本の浮世絵の影響「ジャポニズム」

直接的で強烈な造形と色彩を放つ浮世絵は、当時のヨーロッパ美術から好奇心を集めます。エドガー・ドガをはじめとして、ポスト印象派の立ち位置に並ぶフィンセント・ファン・ゴッホも浮世絵のファンの1人でした。

ポスト印象派(後期印象派)は、印象派の芸術哲学を引き継ぎながらもそれに対し批判的な観点も持ち、さらに実験的な表現が探求された、20世紀モダン・アートの先駆けともなる様式。「ポスト印象派」とは運動を指す名前ではなく、印象派の作品と区別されるためのもの。ポスト印象派の作家には、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・セザンヌ、ポール・ゴーギャンなどが該当します。

印象派絵画とポスト印象派の絵画に見られる違いは、その描く手法に大きく現れます。マネやルノワールをはじめとした印象派の絵画がまだ実際に目に見える映像を写し取った写実的なものであるのに対し、ポスト印象派の絵画はより絵画の画面の上での表現の研究が見られます。

「見えるものを感受性を通してその印象のままに」描かれた印象派と異なり、ポスト印象派の絵画はより作家の精神を通して、苦悶や孤独、情熱やまたは理性的に、精神世界や哲学を描く実験がなされます。その絵画の色彩やフォルムを「見えたものを見えたように描く」よりも、さらに描く人間ひとりの感情をもって大胆に絵画上に現れるようになるのです。

より「現実」よりも「精神世界」を表現するポスト印象派の絵画の世界。網膜で受け止める光の色彩を表現した印象派、そして網膜を経て人間の脳に送られた情報から、その精神を通してカンバスに表現するポスト印象派。

今でいう「芸術家」像が自由そのものであるのは、これらの孤独に生きた画家たちの残した遺産なのです。

コートールド美術館展の見どころ

コートールド美術館展は、コートールド美術館の施設改修のためそのコレクションの貸し出しが可能になったこと、そして2017年の日英首脳会談で決定した「UK-JAPAN 2019-20」という日英文化季間の一環として開催が決まりました。

その今回の展示の「エース」ともいえる作品が、コートールド美術館展のポスターにもなっているエドゥアルド・マネが1882年の最晩年に描いた作品「フォリー=ベルジェールのバー」。1883に亡くなったマネが手がけた最後の絵画です。描かれているのはフランス最初のミュージックホール「フォリー=ベルジェール」と、そのカウンターに立つ女性バーテンダー。
マネ「フォリー=ベルジェールのバー」

マネは写実主義、そして印象派を導いた近代美術の祖ともいえる画家です。この作品「フォリー=ベルジェールのバー」はコートールド美術研究所の研究もあり、学術論文で扱われることもある、世界的に波紋を生み出す絵画。マネの描く華やかなパリ社会の裏側の世界を印象派絵画特有の没入感をもって鑑賞しましょう。

また、ピエール=オーギュスト・ルノワールが1874年に制作した「桟敷席(さじきせき)」もコートールド美術館展にて展示されます。「桟敷席」はコートールド美術館がオークションで落札した美術館のコレクションの中でも有名な作品のひとつで、印象派が「印象派」という名で知られることになった1874年の最初の印象派の展覧会に出品された絵画です。
ルノワール「桟敷席」

そしてポスト印象派を代表するポール・セザンヌの「カード遊びをする人々」、ポール・ゴーギャンの「ネヴァーモア」にも注目。

コートールドのコレクションの「カード遊びをする人々」の絵は、同じテーマでセザンヌが1892年から96年の晩年に描いたもののひとつ。セザンヌの作品の中でも要といわれ、最も評価が高い絵画です。コートールド美術館が所有する一枚は、オルセー美術館、そして2011年にカタール王室が落札したものと構図を同じくしたもの。
セザンヌ「カード遊びをする人々」

ポール・ゴーギャンの「ネヴァーモア」は、1897年にゴーギャンがタヒチ滞在時に描いたもの。別名「横たわるタヒチの女」とも呼ばれます。この「ネヴァーモア」と、アメデオ・モディリアーニ作の「裸婦」は、コートールド美術研究所の科学調査によって作品制作の過程などの秘密が解き明かされており、その内容も展覧会のなかでも興味深い点です。
ゴーギャン「ネヴァーモア」

これらのほか、コートールド美術館展ではドガやゴッホらの油彩、彫刻など60点が展示されます。コートールド美術館は研究所の展示施設であるため、その特有の作品解説も魅力。同時代の状況や作品が制作された背景など、名画をさらに深く知ることのできる仕掛けが期待できます。

また、マネの「フォリー=ベルジェールのバー」を表紙に飾った266ページに及ぶ図録や展覧会オリジナルグッズも要チェック。コートールド美術館展で気に入った作品は、ポストカードを手に入れいつでも鑑賞しましょう。

さらに、この展覧会の音声ガイドのナビゲーターは俳優の三浦春馬さん。今回、音声ガイドの挑戦は初めてということですが、プライベートでも美術鑑賞が趣味という三浦春馬さん自身も、こっそりコートールド美術館に訪れたいとか。イケメンの美声を聞きながらの美術鑑賞という、贅沢な時間が過ごせるでしょう。

まとめ

コートールド美術館展には、印象派、ポスト印象派を代表する作家の絵画のなかでも人気の作品、または美術史として重要な作品も多く展示されます。過去にそのコレクションがまとめて来日したのは20年ほど前のことですから、今回の展示を逃すと、実物を目にすることのできる機会は二度と訪れないかもしれません。

この展示にて、19世紀、新たな美術の世界を切り開いた孤高の作家たちの絵画を前に、その時代の風と高潔な魂を感じられるでしょう。

【コートールド美術館展 魅惑の印象派】

2019年9月10日(火)〜12月15日(日)
(9月18日、10月16日、11月20日はシルバーデーにより65歳以上の方は無料)

チケット

当日券

  • 一般 1,600円
  • 大学生・専門学校生 1,300円
  • 高校生 800円
  • 65歳以上 1,000円

前売り券・団体券

  • 一般 1,400円
  • 大学生・専門学校生 1,100円
  • 高校生 600円
  • 65歳以上 800円
インフォメーション

  • 所在地:東京都美術館 企画展示室 〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
  • 営業時間:9:30~17:30(金曜、11月2日は20:00まで)
  • 休業日:※休室日 月曜日、9月17日、24日、10月15日、11月5日
    (月曜日は9月16日、23日、10月14日、11月4日は開室)
  • 電話番号:03-5777-8600
  • 地図:Googlemap
  • 最寄り:JR上野駅「公園口」より徒歩7分
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