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現代アートでは西洋を基盤としたインスタレーションやコンセプチュアルアートも数多いですが、なかでも有名な日本独自の美術運動である「もの派」というカテゴリは彫刻家が主導したもの。
存在のリアリティに迫る彫刻は哲学との結びつきがより深く、日常の目線や教養をより深化させてくれます。
今回、佐藤忠良をはじめとした日本人の有名な彫刻家、そして将来有望の若手彫刻家、立体作家を編集しました。日本の彫刻にどんなものがあるのかを再確認していきましょう。
目次
有名な日本人の彫刻家
まずは、日本人の有名な彫刻家にはどんな人物がいるのかをご紹介します。昭和時代から現代にかけて、タグボートの彫刻カテゴリのランキングでも上位の彫刻家を含め、特に人気の有名彫刻家をピックアップしました。
佐藤忠良
引用元:”http://www.sagawa-artmuseum.or.jp/plan/images/satoh/img_satoh_06-l.jpg
佐藤忠良(さとう ちゅうりょう)は1912年宮城県出身の彫刻家。
ブロンズの人物像の作品で知られ、同じく彫刻家の舟越保武と、東京藝術大学の前身である東京美術学校で同期で彫刻を学んだ人物です。東京造形大学の創立者としても知られています。
静かなシルエットの女性ブロンズ像など、佐藤忠良の作品はその存在感の美しさから、日本の彫刻の中でも老若男女多くの人に愛されるもの。特に地元宮城県の人々からは「忠良さん」とコメントを集め、身近に親しまれています。
佐藤忠良の作品にはリラックスした佇まいの人物像が多いですが、その自然な人物の動作の筋肉の動きや全体のバランスなど、オーバーな表現は決してせず、かつ躍動感のある彫刻がみられます。
その人物の時間を閉じ込めたような自然な雰囲気、そして彫刻のモデルとした日本人に独特の風貌の美しさを追求した作品は、西洋のアートシーンを由来とするブロンズ人体彫刻を日本の土壌で再構築したとして、佐藤忠良は批評家に高く評価され、賛辞を受けました。
現在、佐藤忠良の作品は東京国立近代美術館、滋賀県の佐川美術館、静岡県立美術館、そして宮城県立美術館ならびに佐藤忠良記念館など日本中の美術館に展示され、または広場のモニュメントとして保存されています。
佐藤忠良は2011年に逝去されましたが、昭和期を代表する有名な日本人の彫刻家として、誰もの記憶に残っています。
舟越桂
舟越桂(ふなこし かつら)は1951年生まれ岩手県出身の彫刻家で、父は佐藤忠良と並ぶ日本人の有名彫刻家、舟越保武です。
舟越桂は幼少期から父、保武と同じように彫刻家となることを志し、東京藝術大学で彫刻を専攻し修士課程まで在学していました。
1988年のヴェネツィア・ビエンナーレ出品をきっかけに国内、国外ともに作品が評価され、その後もドイツ・カッセルのドクメンタ、シドニービエンナーレの出品を始め国内の彫刻における賞を多数受賞し、30代の頃より日本人の彫刻家として活躍を見せています。
舟越桂の父、舟越保武も佐藤忠良と同じくロダンに憧れ彫刻家を志した人物です。またクリスチャンとしてキリスト教にまつわる題材を含み、端正で静謐な美しさを持つ作品を生み出しました。
舟越桂の題材はキリスト教を離れるものの、そのドローイングや人物彫刻の表情は舟越保武の人物像の印象を引き継いでいます。
舟越桂の初期の作品は人物の肖像的な作品が多く、トルソー(胸像)をはじめとした着彩された木彫の彫刻を主としました。
現在の作品まで一貫して舟越桂の人物彫刻には大理石製の眼球が目にはめ込まれており、木の温かみのある肌と硬質な目の質感との対比を感じることができます。遠くを見つめているような視線は、決して鑑賞者と交わることはありません。
2000年代から現在にかけてはエジプトの神話に出てくる半身半獣、雌雄同体の「スフィンクス」をテーマとし、人間でもあり人間ではない存在のトルソーを制作しています。「人間とは何か」という題目を、「問いかける存在」であるスフィンクスをもって私たちに問うている作品です。
舟越桂は現在も東京造形大学の非常勤講師として彫刻の指導をしています。現代の日本人の有名彫刻家として、コレクターにも非常に人気の高い人物です。
名和晃平
名和晃平(なわ こうへい)は1975年大阪府出身の、透明なガラスビーズを立体物の全面に貼り付けた作品で有名な日本人の彫刻家。
アート通販サイト、タグボートの公式売れ筋ランキングでも上位の、彫刻というカテゴリを超えた人気作家です。京都を拠点に活動しており、現在は京都造形芸術大学で教鞭をとっています。
名和晃平は私たちの「見る」「触る」といった視覚と触覚に関連した知覚に注目し、また現実のリアリティとインターネットなど情報社会の、アナログとデジタルの中間を行き来する「感覚」のリアルを追求する彫刻家です。彫刻というカテゴリにおける広い課題である、人やものの「表層」に関するテーマをあらゆる素材やテクノロジーを用いて表現します。
名和晃平が彫刻作品に使用する素材はポリウレタンやシリコンオイルなどといった工業的なもので、情報社会の拡張性や、人間の常に揺れ動く視覚を具象化させるような作品や編集記事がアートニュースなど芸能メディアでも好評を博しています。
名和晃平は自身の作品を「PRIZM」「LIQUID」などカテゴリを分けることも特徴的で、2011年開催された東京都現代美術館で初の大規模個展『名和晃平 シンセシス』ではガラスビーズで覆われた動物の剥製のシリーズである「BEADS」が話題となり、名和晃平を代表する有名作品として知られています。
日本人の現代美術を代表する日本人の有名彫刻家として、名和晃平はこれからも日本のアートシーンを牽引する存在といえるでしょう。
これから注目すべき若手彫刻家・立体作家
ここからのページは、これからの活躍をより期待されるオススメの日本人の若手彫刻家を紹介していきます。
クラシックな表現もありつつ、漫画や映画などあらゆる現代文化、サブカルチャーに触れながら、先進的な現代アート表現を探求する若手彫刻家の動向は常にチェックしておくべき。
インスタグラムの投稿コメントなどもまとめて注目の彫刻家たちを追っていきましょう。
鮫島弓起雄
鮫島弓起雄(さめしま ゆみきお)は東京都出身の彫刻家、およびインスタレーションなど立体作品のカテゴリで活躍する若手作家。東京造形大学にて彫刻を専攻し、これまで広島市現代美術館、Brillia Art Awardなど多く公募展において受賞、入選しました。現在も都内で作家活動を行なっています。
鮫島弓起雄の作品のなかでも、彫刻の素材に機械の廃材やコンクリートをたびたび使用します。彫刻作品の「八百万」シリーズでは、壊れた機械のパーツとモルタルを組み合わせ「現代社会の新たな神像」を生み出しました。
本来、日本の神道では自然石を信仰の依代として崇めることがありますが、この作品シリーズにおいてコンクリートを「人間社会の中で生み出された人造石」として据えることで、現代の都会の環境や、そこから得られる「恵み」について問いかけているかのような、独特の存在感を感じられます。
決まった表現方法に限定せず、その場所のサイトスペシフィックと関連して空間全体を変化させる仕事を得意とする鮫島。アジアの僻地に滞在するなど旅を経て得た経験から、その場と人との関係性を持たせ、見る人に楽しさや驚きを与えようと試みています。
また、アート関係者の国際交流会「Artist Meetup」の開催、メキシコと日本のアートプロジェクト「JaN -Artist in Homestay」の立ち上げと運営など、グローバルな交流に関わる人物でもあります。
永井天陽
永井天陽(ながい そらや)は1991年埼玉県出身の若手彫刻家。武蔵野美術大学にて彫刻の修士号を取得し、在学中から日本文化藝術財団奨学生、また奈良美智のディレクションによる青森県立美術館・八角堂プロジェクト「PAHSE2014」に選出されるなど、活躍をみせています。
永井天陽の作品を代表するのは、人形などのレディメイドをひな型に、真空成形したアクリルの透明な「表皮」の中に別の既製品を閉じ込めた「メタラクション」のシリーズ。彫刻の表層と満たされた内部を組み替えることにより、私たちが普段目にしているものに対する隠された意識を浮き彫りに、あるいはそのあり方を問い直すようなはたらきを生み出しています。
作品は全体としてポップで遊び心に富んでいますが、私たちが「当たり前」だと認識しているモノのかたちや存在意義などが、ふとした拍子に霧散して無意味になったり、むしろ異質で恐ろしいものに変わってしまう可能性を目の当たりにさせられる一面をもつ、油断ならないもの。
永井天陽は現在は東京都を拠点とし、都内を中心として展示活動を行なっています。今後どのような作品を展開するのか期待が寄せられる彫刻家です。
今野健太
今野健太(こんの けんた)は1980年東京都出身、東京藝術大学にて彫刻専攻の博士号を修得した彫刻家。大理石や砂岩などの石材を扱い、キクラデス偶像にも似た人間像を制作します。
人体の有機的なパーツの一部を切り取ったような今野の彫刻は、ヨーロッパの伝統的な大理石彫刻のテクニックを継ぎながらも「アンノウン」な存在感を放ち、人間が肉と皮とで包まれているという物質的な感覚を思わせます。
石と対照的に時間的耐久性の低い藁や麻などを作品に組み込むこともあり、石彫のもつ永遠の時間、また民俗学的な印象も持ち合わせています。
体温を感じさせる色味の石材から作られる神話の断片のような彫刻は、コンテンポラリーアートとはまた異なる角度からのアプローチであり、「人間とは何か」という不変の問いかけを継承しつつも、現代的な造形感覚でかたちづくられます。
石の彫刻は人間の造形物としても最も歴史があり、今野も現代美術家のほか歴史に作者の名が埋もれたような古いものからイマジネーションを受けました。作家としても自身の名を残すよりも、古代の発掘される遺物のように作品そのものを残そうと試みています。
内堀麻美
内堀麻美(うちぼり あさみ)は1987年東京都生まれの「彫刻絵画作家」。武蔵野美術大学で絵画を学んだのち、修士課程で彫刻家としての技術を身につけました。
内堀の彫刻は木を用い、ソースや食パンなどといった日常的な食品や文房具などといった身の回りに溢れているものをモデルに1.5倍の大きさし、その形状やペイントを「やや」抽象化させることで、そのモノの用途を取り払い、存在感を浮き彫りにします。
「1.5倍」とは人がモノを心理的に認識する大きさであり、内堀の作品は人が普段目にしているものの色や形など、表層的なイメージを純化させる試みともいえるでしょう。あるところで「彫刻を支持体(ベース)にした絵画」とも考えられ、そのユニークな佇まいから人気を得ています。
内堀は人が美術に触れるきっかけとなる作家を目標に、現在も東京を中心として活動を続けています。
松下沙織
松下沙織(まつした さおり)は1990年東京都出身の彫刻家・美術作家。武蔵野美術大学の博士過程でブランクーシを始めとしたモダニズム彫刻や初期キリスト教美術を学び、現代人の無意識的な宗教観をコンテクストに作品制作をしています。
松下の陶磁器を素材とした彫刻は、子供の作ったような曖昧な粘土造形に施された厚みのある白い釉薬が特徴です。釉薬にシルエットが覆われることで形状がより単純化され、観る者それぞれのイメージを投影できるように仕掛けられています。
「観る者と作品との一対一の対話」という状況を作り出すために作品のスケールは小さく、それぞれは手に収まるほどの規模。記憶の深窓に触れるように、モチーフも子供のおもちゃのようなイメージが主であり、作品からは子供の頃に感じたような漠然とした憧れや恐れの感情を引き出されるよう。
現在はドローイングや刺繍を用いた平面作品も多く、あらゆる素材と表現方法を試しています。2020年からはアメリカのシアトルを拠点として国際的な活動を予定しています。
まとめ
彫刻は絵画と異なり、設置する空間にある程度の広がりが必要です。そのため日本の矮小な住宅事情により、現代アートの市場経済は立体作品よりも平面作品に偏りがち。
しかし彫刻というカテゴリは哲学思想とより関連が深く、行き場のない精神の支柱となったり、見たことも感じたこともない、新しい感情を起こし得るもの。美術館やギャラリーでは、彫刻作品の佇まいや存在感に圧倒されることでしょう。
また、現代の日本人の彫刻家たちは日本のアートシーンを愁うとともに、常に新しい試みにより進化し続けています。今後の若手の彫刻家たちの活躍も期待するとともに、有名彫刻家の動向にも注目です。
日本の現代アートシーンは欧米や他アジアと比較して停滞気味であるのが現実ですが、既成の概念にとらわれない現代作家たちを、日本人の新しい文化の担い手として応援しましょう。