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パリが愛した日本人、あなたはフジタを知っていますか?
“死の棘”で第43回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ、そして国際批評家連盟賞をダブル受賞した小栗康平監督、そして大ヒット映画”アメリ”を手がけたプロデューサークロディー・オサールによる日仏合作の映画。
週に5本以上の映画を観る筆者が”FOUJITA-フジタ-“がレビュー。この映画を観るべきか迷っていた人はぜひ参考にしてください。※あらすじ・レビューでは作品のネタバレを含みます。
この映画はまるでアート作品!フランスパリに愛され愛した藤田嗣治の人生
【解説】画家・藤田嗣治の生い立ち
1886年(明治19年)11月27日東京生まれ。藤田嗣治は陸軍軍医総監の父をはじめ、法制学者・上智大学教授の兄、そして劇作化・演出家・批評家の小山内薫を従弟に持ちます。日本人を含む5人の女性と結婚しますが、藤田嗣治自身に子供はいません。
幼少期から絵を描き続けた藤田嗣治は、14歳のころ父に画家になる夢を告げます。父の知人で会った森鴎外の薦めにより、東京美術学校学校(現:東京芸術大学美術学部)に入学するも、藤田嗣治の作風は不評で成績も芳しくありませんでした。
1913年(大正2年)藤田嗣治は最初の妻を日本に残し、単身フランスパリへ。映画では、第一次世界大戦が終結しすでに売れっ子としての地位を確立させている1920年代から物語が始まります。
【あらすじ】パリと日本、フジタと藤田嗣治の対照的な暮らしを描いた作品
①二人目の妻フェルナンドとの関係
藤田嗣治は妻フェルナンドの宣伝により、パリでの成功を収めていました。しかし藤田嗣治は彼女から”画が売れるようになって偉そうになったわね”と告げ夫婦仲は険悪です。
②お調子者”フーフー”と呼ばれて
藤田嗣治は”寝室の裸婦キキ”のモデルとなったキキ、そして画家や作家たちと芸術談義を楽しみ酒を飲みながらバカ騒ぎをしています。異国の地に暮らす日本人の藤田嗣治。”いくら画が上手くても名前が知られてないと画は売れない”と語りました。
③タペストリー”貴婦人と一角獣”
愛人のユキとはしゃぐシーンが終わると、朱色が美しいタペストリーを見つめるシーンに。映画のワンシーンとしては比較的長く、藤田嗣治の心が深く魅了されていくさまが描かれました。インスピレーションを得た藤田嗣治は、三人の裸婦をモデルに新たな作品へと取り組み始めます。
④先輩の画家として語る
藤田嗣治はパリを訪れた日本人留学生の面倒を見ていました。”人間は奮闘しなくてはいけません”と、日本人画家の後輩たちに画家として言葉をかけます。フジタのマネキンを見て”ここまでやらないとだめなのか”と語る後輩たちが印象的です。
⑤パリの寵児へ”フジタ・ナイト”
完成した三人の裸婦の絵画により、”エコール・ド・パリ”フジタはより高い評価を受けます。ユキとともにパリでの暮らしを楽しむ藤田嗣治。友人たちと開催した仮装パーティーのシーンはこの映画の前半の山場でしょう。
⑥ユキとの別れ、そして日本へ
薄暗い中、ベッドの上で語り合う藤田嗣治と三人目の妻ユキ。”白い肌にいれずみを彫りたい”と告げる藤田嗣治に、ユキは”どうしたの?淋しいの?”と声をかけました。
⑦時は第二次世界大戦へ
日本へ戻った藤田嗣治は戦争画を完成させ決戦展示会で発表しました。泣き崩れる人のシーン。そして列車の中で藤田嗣治は戦争画を描くことを”命がけの腕試しだった”そして、”画が人の心を動かすものであることを知った”と語ります。
⑧君代との戦時中の暮らし
映画の中盤から後半にかけて五人目の妻となった君代との疎開先での暮らしぶりが描かれます。藤田嗣治は大日本帝国陸軍少将の地位にあり、比較的恵まれた生活を送っていました。しかし日本が敗戦に向かっていきます。
⑨寛治郎の出征、戦争に対する思い
藤田嗣治の親しい人々にも赤紙が届きはじめ、青年寛治郎もその一人となります。別れの言葉ではなく化け狐の物語を語る寛治郎に、寛治郎の母は”帰ってこい、死ぬな”と声をかけこのシーンは終わりました。
しばらくして、藤田嗣治は聖戦美術展開催の会議の場で、日本軍の衝撃的な動画を目にすることになります。
⑩沈む”アッツ島玉砕”の画
映画の最後では藤田嗣治がまるで夢を見ているかのようにシーンが移り変わります。戦闘機の轟音の中、寛治郎が語った狐の物語のイメージが映し出され、柔らかく流れる小川の中に沈む”アッツ島玉砕”の画。藤田嗣治はこの戦争に何を感じたのでしょうか?
…エンドロールの最中、祈る藤田嗣治と君代と思われる人物像が、教会のチャペルの壁画として描かれています。そして映画はここで終わります。
この映画のみどころ
映画冒頭、絵画を映した画なのか風景なのか、頭の中でクエスチョンマークが浮かぶほどの美しい映像が印象的な作品です。シーンが変わり真っ白なキャンバスに輪郭線を描いているのはオダギリジョーさんが演じる藤田嗣治。
かなり個性的な格好をしたオダギリジョーさんに一瞬ドキリとしますが、藤田嗣治を知っている人ならば、以外にも自然に受け入れられるはず。こんな風に”乳白色の裸婦”が作られていくのかと息をのみました。
映画好きな筆者のお気に入りのシーンは、モデルのキキがフランス語で歌うシーンとフジタ・ナイトで花魁に扮したキキがコケてしまうシーン。この天真爛漫な性格のキキを演じたアンジェル・ユモーはとても魅力的な女性です。
【キャスト】オダギリジョー&中谷美紀が熱演
この作品の主演を務めたのはオダギリジョーさん。風貌はまさに藤田嗣治そのもの。おかっぱ頭に、丸い眼鏡と丸いピアス、そしてちょび髭。タバコを加えながら”輪郭線”を描く姿は、まるでそこに藤田嗣治が蘇ったかのような再現性の高さです。
オタギリジョーさんが演じた藤田嗣治は、”独特なおしゃれ感”がよく出ていると感じました。パリの洋画家フジタというキャラクターにかなりハマっています。
作品の上映初日舞台挨拶の際、オダギリジョーさんは”これからは、東京タワーのオタギリからフジタのオダギリへ。藤田嗣治を演じた姿は今まで演じたどの姿よりも最も美しい”とインタビューで答えました。
日本人として三人目の妻となる君代を演じたのは中谷美紀さん。しっとりとした着物姿がとても美しくさすがです。天才藤田嗣治の五人目の妻というもどかしい立場。どこか儚い夢のようなこの映画の中でとても”人間らしさ”を感じました。
疎開先で知り合った青年寛治郎を演じたのは加瀬亮さん。寛治郎が語る”化け狐の物語”のシーンは、”行きたくない”、そして”行かないで”と言えない、その時代背景がとても深く表現されている辛いシーンです。
【レビュー&感想】圧倒的映像美を楽しむ映画
気になるのはこの映画から藤田嗣治の作風が学べるのか?ということではないでしょうか?残念ながら藤田嗣治が絵画制作に取り組むシーンは少なめです。
映画のストーリーですが、”今のシーンで終わり?”という編集が目立ち、藤田嗣治がどういう人物であったのか事前知識がないと、映画だけではスッキリできない部分があるかと思います。
映画前半にはモディリアーニなど、アートに関係したキーワードがたくさん登場しますから、この”エコール・ド・パリ”の時代に詳しい人ならば、より映画の世界を楽しめるのではないでしょうか?
戦争画を描いた藤田嗣治は戦後、戦争協力者として批判されました。映画後半からは、藤田嗣治が抱えていたであろう戦争への思いをじわりじわりと考えさせられます。
残念ながら再びフランスへ渡った藤田嗣治が、帰化し”レオナール・ツグハル・フジタ”としてどう生きたのか?という結末は映画では描かれてはいません。
ズバリ、オダギリジョーさんはかなりはまり役です。シーンの美しさが藤田嗣治の絵画へと繋がるような、不思議な感覚を味わえる映画。この映画を観た藤田嗣治ファンは、きっと美術館へと足を運びたくなるはずです。
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