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六本木・森美術館でZOZO前澤前社長が123億円で購入した絵画も展示

レビュー
【ニューヨークを震撼させた天才】バスキアの大規模展覧会レビュー in 森美術館
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六本木・森美術館で開催されている「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」 (2019年9月21日~11月17日)。ZOZO TOWN前澤前社長が123億円で購入し話題になった絵画も公開されていて、気になっている方も多いのではないでしょうか。

もちろん、MUTERIUM編集部もこのバスキア展に行ってきました!…が、バスキア展そのものは解説がやや少なく、編集部では「背景知識があれば、よりバスキア展を楽しめそうだね」という話に。そこで、バスキア展に足を運んだ編集部が、事前に知っておくべき情報をご紹介しながらバスキア展をレビュー。

このレビューが、バスキア展をより楽しむきっかけになれば嬉しいです。

バスキア展の感想~まずは展覧会全体をレビュー~

バスキア展の様子
バスキア展には、バスキアのドローイングの他、バスキアが所持していたノートやスケッチが展示されていました。展示作品のうち11点は、自由に撮影できるようになっています(ZOZO前澤前社長が購入した絵画も撮影可能です)。

ちなみに、音声ガイドのナビゲーターは吉岡里帆さん。バスキア展は音声ガイドを無料で貸し出ししていて、一部の作品は解説を聞くことができます。

バスキアの作品を鑑賞してまず感じるのは、文字が多いということ。バスキアの絵画やスケッチ、ノートには、絵だけではなく文字も多く残されていて、絵と文字が融合している作品も少なくありません。
文字が多いバスキアの絵画
では具体的にどのような言葉が描かれているのかというと、人物の名前(バスキア自身のルーツから、特に黒人のジャズミュージシャンやアスリートが多い)、意味をなさない言葉遊びのようなフレーズ、「愛は嘘/恋人は嘘つき」などの詩のような文章、資本主義や法律に対する批判、「200yen」などのお金を表す文字などなど。

時間があれば、バスキア展の作品に描かれた文字を訳したり、意味を考えたりすると、より理解が深まりますね。

そして、バスキアは様々な言葉を、クレヨンやマーカーで書き殴ったり、棒線で消して書き直したり、繰り返したりしています。バスキアの思考のプロセスが生々しく感じられ、感情がほとばしるままに制作していたバスキアの様子が目に浮かぶようでした。

ちなみに、2015年にはバスキアが残したノート8冊の複写が出版されていて、日本語版も出版予定とのことです。

バスキア展メイド・イン・ジャパンには日本に関するアート作品が多い

バスキアと日本の関係
日本初のバスキア大規模展である今回のバスキア展は、メイド・イン・ジャパンという表題がつくことからも分かるように、バスキアと日本との関係に焦点を当てた特別構成の展示です。

実際に、バスキアが1980年代に来日した時の影響が感じられる絵画作品やスケッチが展示されています。

バスキアは27年という短い生涯の中で3000以上のドローイング・1000以上の絵画を制作していますが、その中には日本に関する要素が含まれた作品があります。例えば、柔道のスケッチや、「100yen,200yen…」と日本の通貨をひたすらクレヨンで描いたノート、「Made in Japan」という言葉や、日本製品の模写が見られる絵画がバスキア展に展示されていました。

バスキアは日本をどのように捉えていたのか?

バスキアの差別に対する怒り
バスキア展の中には、バスキアが日本に対して皮肉を込めているようなメッセージを感じる絵画も。例えば、バスキア展に展示されている「寺院」という絵画には、五重の塔と、その周辺に「estimated(見積り)200yen」という文字が描かれています。まるで、伝統文化に値段がつけられているようです。

ここで押さえておきたいのは、バスキアが来日した1980年代の日本がバブル時代だったということ。当時の日本は強い経済力を持ち、バスキアの祖国アメリカにもたくさんの日本製品が溢れていました。

さらに、父親がハイチ出身、母親がプエルトリコ系であるバスキアは、1960年という黒人差別が残る時代に生まれています。社会的にマイノリティというバックグラウンドもあり、バスキアのアートには、社会や差別に対して批判的なメッセージが込められている作品も多いです。

このような背景から、バスキアは権力を嫌悪し、経済的な影響力を持つ当時の日本に対して複雑な感情を抱いていたのではないでしょうか。

それでは、ここからは恒例(?)のMUTERIUM編集部によるお気に入りの展示作品をご紹介していきましょう。

編集部 玉木が選ぶ バスキア展お気に入り作品ベスト作品4つ

記事作者_icon
玉木
MUTERIUM 編集部
アートに興味はあるが、まだまだ勉強中。海外経験が長いので色々な有名美術館に行ったことあるのがちょっとした自慢。近代アートやモダンアートをいつか部屋に飾りたい。

無題(1983)

お気に入り1
今回の大展覧会の最後あたりのエリアに展示してあった作品。非常に大きな作品で239×346.5cmもある。絵画の中にひたすら繰り返される言葉やモチーフ、アイコンなど。絵画とは思えない情報量の多さに圧倒される。アメリカの工業デザイナー、ヘンリー・ドレイファス著の「シンボルの原典」に出てくるシンボルやコウモリ、小説白鯨のMOBY DICK 緑のへびなど何時間でも見ていられるよう。

自画像(1984)

自画像
王冠やスカル、ピースマークなどアイコンのイメージやスタイリッシュさのイメージが強い方も多いバスキア。ただこの自画像を見たときはガツンと頭を殴られたような衝撃を感じました。自画像と名付けられたこの作品はもちろんバスキア自身を描いたものですが具体的な特徴は髪型くらい。しかしフェイスは黒人の受けている痛みを表しているようでもあるし黒人としての自身のルーツへの経緯や力強さ自己を表現しているよう。

バスキアが描く自画像や黒人は、黒く塗りつぶされていることが多く、これはアフリカ系アメリカ人のステレオタイプや匿名性を象徴していると言われています。
「…実際、黒人は描かれてこなかった、僕はそれをするのが嬉しい。僕は主人公として”黒人”を扱う、何故ならば僕は黒人だから。」(ジェフ・ダンロップとサンディ・ネアンによるインタビュー 雑誌pen No.48より)

バレンタイン(1984)

バレンタイン
個人的な好みとしては彼女と自身を描いたこの作品が気に入りました。しかしwiki artにもないし撮影不可ということでお見せできないのが残念。
作品の中身は当時のバスキアの恋人ペイジ・パウエルと自分を猿の姿で描いたもの。バスキアが彼女に食べ物を与えている。彼女が動物園のボランティアをしているときにチンパンジーを世話したエピソードを元に作られたとのこと。

無題(1982)

無題
もう有名になりましたね。元ZOZO社長 前澤氏が購入し、所蔵していることでも有名なこの作品。グラフィティから絵画に移行した時期の作品ということですがとにかく色彩感覚が素晴らしいと感じました。バスキアは商業主義を批判している作品を多く残しているが、その本人の作品が商業主義の象徴として今語られているのは皮肉とも思うが、この作品を前にするとそれさえもどうでもいいと思える。

編集部 荻が選ぶ バスキア展お気に入り作品ベスト3

記事作者_icon
MUTERIUM 編集部
フランスが好き。アートにはずっと興味があるがなかなか触れ合う機会が持てなかったので、今回はいい機会だと思っている。とにかく好きなことしかやらない、興味ない人

メイド・イン・ジャパンI(1982)

メイド・イン・ジャパンI
バスキアの絵画には、頭蓋骨などの人体の一部が描かれていることが多いですが、これは母親からもらった解剖学の本の影響だとされています。バスキア展に展示されているこの絵画も、そうした影響があるのではと感じました。

ワックス(1982)

ワックス
まりもみたいで可愛いくて好き…という部分もありますが、バスキアが描く黒人像との関連を感じた絵画。バスキアが描く自画像や黒人は、黒く塗りつぶされていることが多く、これはアフリカ系アメリカ人のステレオタイプや匿名性を象徴していると言われています。

無題(1982)

無題
素朴さが何とも言えない!バスキアの作品は、アニメやマンガの影響を大きく受けていると言われています。この絵も、アニメらしいコミカルさが印象的です。

バスキア展は、六本木という立地かつ適度な作品数で、気軽に立ち寄れる展覧会でした。さらに、会場内のチェキで写真を撮ると、その写真がチケット代わりになって、もう1度バスキア展に無料で入場できるようになっています。つまり、バスキア展は1回分の料金で2度楽しめる仕組みなのです。そんなバスキア展に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

【雑誌】

Pen (ペン) 「特集:ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか。」〈2019年10/1号〉 [雑誌]


【Kindle版】

Pen (ペン) 「特集:ニューヨークを揺さぶった天才画家 バスキアを見たか。」〈2019年10/1号〉 [雑誌]

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