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草間彌生は、日本を代表する女性アーティスト。2017年に国立新美術館で開催された展覧会『草間彌生 わが永遠の魂』も大盛況を収めました。
そんな草間彌生の手がけた名だたる作品の中でも、「かぼちゃ」の形の巨大彫刻は日本人の老若男女の誰もが知っています。でも、そもそもなんで「かぼちゃ」でなければいけないのでしょうか?
そんな草間彌生と「かぼちゃ」のモチーフの関係について、紐解いていきましょう。
目次
そもそも草間彌生はどんなアーティスト?
- 【草間彌生(くさま やよい)】
- 1929年3月22日 長野県松本市生まれ
草間彌生は、長野県の裕福な家庭で生まれ育ちました。幼少期より「総合失調症」に悩まされ、その自己の感覚や感情、知覚の歪みから引き起こされる幻覚や幻聴と対峙するためにスケッチや絵画を描きはじめたといわれています。
10代の頃より、美術のコンクールなどで入選するなど、才能の片鱗を見せました。そして高校時代には日本画を勉強しますが、日本画の道には進みませんでした。価値観の固定した保守的な日本画の世界は、草間彌生の世界観とは違っていたのです。
草間彌生は実家で黙々と制作を続けます。日本画壇の助けを得ずとも、身の回りの人物に才能を認められ、国内で活躍を見せ始めました。当時、草間の才能を見出した作家の松澤宥(まつざわ ゆたか)は、草間の師にあたります。
そして、草間彌生の人生の転換期といえるニューヨーク渡米は1954年のこと。実は、草間が世界的に絶賛されるアーティストとなり得たのはこのニューヨーク時代の活動がきっかけとなっています。
ニューヨーク時代の草間彌生の芸術活動は、大変アクティブなものでした。当時のヒッピームーブメントを基にし、全裸の男女や自分自身に水玉のボディペインティングを施し、屋外でセクシャリティをテーマにしたパフォーマンスを行う「ハプニング」という活動は、ニューヨークや日本をはじめとした世界中で波紋を呼びます。
また、男根のような形をした布製のオブジェクト(ソフト・スカルプチャー)をハシゴにびっしりと貼り付けた「トラヴェリング・ライフ」という作品など、当時の草間は主に性的なものを主なテーマとして扱っていました。その傍で、性に対する拒否感や抑圧を犯罪や戦争を引き起こす人間の心理と重ね合わせた強いメッセージを発信します。
草間彌生はニューヨーク時代にジョセフ・コーネルというパートナーを得ました。2人はお互いに美術制作においても多大な影響を与え合う関係に。ほかにも、ドナルド・ジャッドなど、美術史に名を残すアーティストと交流を持ち、1966年には世界的な美術の祭典であるヴェネチア・ビエンナーレに参加。そうして、草間は、「前衛の女王」という異名を得ました。
草間彌生のニューヨーク時代の芸術活動は、自らも精力的に動き回るなどたいへんアクティブなものでしたが、1976年にパートナーであるジョセフ・コーネルをなくしてから、精神的な不調により日本に帰国。それからは、草間は入院生活を経ながら小規模なドローイングや執筆活動などといったおとなしいものとなっていきます。
そして、草間彌生が再び世界的に注目され始めるのは1989年のこと。ニューヨークのMOMA P.S.1(国際現代美術センター)で開催された展覧会「インフィニティ・ミラーズ」というインスタレーション作品をきっかけに、1993年のヴェネチア・ビエンナーレに日本代表として参加するなど、90年代を皮切りにあらためて活躍が見られるようになりました。
また、2014年にはアメリカの美術専門誌「The Art Newspaper」において「世界で最も人気なアーティスト」に選ばれ、また2014年には週刊誌「TIMES」において「世界で最も影響力のある100人」に選出、文化勲章を受章するなど、当時87歳にして芸術家としての最高の栄誉を勝ち取ります。
そして、草間彌生のかぼちゃの作品ではじめに世界的に有名になったのは、その「インフィニティ・ミラーズ」という作品でした。
代表的なモチーフ”かぼちゃ”の秘密
草間彌生がその作品に多用するモチーフとして有名なものはふたつ、「水玉」と「かぼちゃ」。水玉は、草間が幼少期から悩まされていた幻覚や幻聴から身を守るためのまじない、あるいは強迫観念の象徴といわれています。ですが、かぼちゃのモチーフは何を象徴するものなのでしょうか。
草間彌生がかぼちゃをモチーフとして使用し始めたのは、主に90年代からが目立ちます。MOMA P.S.1での「インフィニティ・ミラーズ」の展示に、淡く発光するかぼちゃのオブジェが用いられたことを皮切りに、草間が生涯にわたって用い続ける水玉模様を施したかぼちゃのモチーフが台頭するようになりました。
草間彌生は、かぼちゃのモチーフに惹きつけられる理由について、かぼちゃがどれ一つを取っても私たちと同じように同じ形のものがないこと、そして愛嬌があり気取りがなく、どっしりとしたフォルムであるということを述べています。また、かぼちゃのモチーフは草間自身の自画像の一種として使用されるという説も。
かぼちゃのモチーフは、ドローイングや彫刻などのオブジェに現れます。そのポップな色彩やコロンとした可愛らしい形から、クッションやキーホルダーなどの草間彌生の公式グッズでも人気を集めています。
しかし、草間彌生のかぼちゃの作品で最も有名なのはその巨大な彫刻作品である「南瓜」ではないでしょうか。2017年に国立新美術館で開催された個展『草間彌生 わが永遠の魂』でも展示され、そのフォトジェニックな存在感に老若男女が夢中になりました。
今でも、常設展示として巨大なかぼちゃの彫刻は瀬戸内海の直島に設置されており、いつでも見に行くことができます。
直島とのつながり
直島は、香川県に属する、瀬戸内海の島のひとつであり、3年に一度、瀬戸内で開催される『瀬戸内国際芸術祭(Setouchi Triennale)』の中心部となります。直島は、芸術祭の期間外でも常設展示されている現代アートをいつでも鑑賞できる場所であり、世界中からその作品を訪れに観光客が訪れています。
『瀬戸内国際芸術祭』は2019年にも開催され、現代アートや直島にある草間彌生の巨大なかぼちゃのオブジェを目当てに多くの観光客が押し寄せました。
直島にあるかぼちゃのオブジェは、1994年に制作された、小屋ほどの大きさの黒いドットがランダムにあしらわれたやや扁平な真っ赤な「赤かぼちゃ」と、黒いドットがかぼちゃの凹凸に沿って並んだ黄色い「南瓜」という作品。
中でも、「赤かぼちゃ」は草間彌生自身が「太陽の『赤い光』を宇宙の果てまで探しに来て それは直島の海の中で赤かぼちゃに変身してしまった」というストーリーを残しています。「赤かぼちゃ」の内部は空洞になっており、公園の遊具のように中に入ることができます。夜は内部がライトアップされ、ポップながら幻想的な様相を醸し出すので、ぜひ昼だけでなく夜も訪れたい作品ですね。
「赤かぼちゃ」は、岡山・直島間のフェリーが発着する「宮浦港」にあり、黄色い「南瓜」は宮浦港付近からバスに乗り、「つつじ荘」というバス停から下車数分。「南瓜」は波止場に設置されており、夜は内部からほのかに発光するようにライトアップされるので、灯台のように遠くの海からでも見えるようになっています。
直島には草間彌生のグッズも販売されており、ふたつのかぼちゃのオブジェを模したキーホルダーやキーリング、草間のかぼちゃのドローイングをくりぬいたようなポストカード、
かぼちゃも観れる?草間彌生美術館について
草間彌生は、自身の作品を保存し、その振興を図るためとして、2017年に『草間彌生美術館』を新宿区に設立しました。
現在、草間彌生はルイ・ヴィトンやフェラガモなどのハイブランドをはじめとしたアパレルのシーンでもデザイナーとコラボレーションをするなど、商業界でも活躍を見せています。しかし、そういったポップの世界はアートの世界からすると、草間芸術に触れる入り口でしかありません。
本来、草間彌生が伝えたいことは、その作品の外見の可愛らしさや奇抜さ、インテリアとしてのおしゃれさ、フォトジェニック、インスタ映えなどではなく、その作品の内部にあるメッセージです。
ベトナム戦争中のアメリカに滞在し、ニューヨークの激流ともいえるアートシーンを経験してきた草間にとって、人間愛や世界平和を訴えかけることは使命でもありました。初期に世界的に有名になった「クサマ・ハプニング」のアクションも、性の抑圧から解放することで、人間を抑圧から解放し世界平和を訴えるためのコンセプトを持つもの。
草間彌生は、まず自身の病という抑圧や、戦争という意識の抑圧から生まれる悲劇からの解放、それらのような悲劇から身を守るための水玉模様、そして「何一つとして同じ形のない」かぼちゃと人間愛の表現など、草間の制作には一貫してメッセージが込められています。
草間彌生美術館とは、それらのような意思の篭った草間自身の作品を残すための美術館です。前衛芸術家として日本人で唯一世界的な注目を集め、90歳を超える現在でも「第2の黄金期」として旺盛な制作に取り組んでいる草間彌生。ニューヨーク時代の次なる活躍として、精力的な芸術活動を行なっている草間の多くの作品に触れる機会は、草間彌生美術館以外にありません。
今では「水玉模様」や「かぼちゃ」のポップな様相が有名な草間彌生の作品ですが、50〜70年代の初期から中期に渡っての作品も草間ファンには押さえておきたいところ。水玉模様だけではなく、網目模様で網羅された絵画も、アメリカをはじめとしたアートシーンで今でも人気を博しています。
それら初期の作品から現在の作品に至るまで、草間彌生美術館では見ることができます。巨大なかぼちゃの作品も各展覧会にて展示されますから、過去作に興味を持った人も、草間芸術の集積であるその美術館にて、草間彌生の軌跡をより詳しく知ることができるでしょう。
また、これまでに出版された50冊を超える草間彌生の作品集や、ニューヨークから帰国後に執筆した著書などの書籍を手にとって読むことのできる資料閲覧スペースや、美術館オリジナルの草間彌生グッズを購入できるミュージアムショップも充実しています。
【草間彌生美術館】
チケット
- 一般 1,600円
- 小中学生 600円
- 未就学児無料
入場は完全予約制であり、美術館のウェブサイトからのみ購入可能。
- 所在地:〒162-0851 東京都新宿区弁天町107
- 営業時間:11:00~17:30
- 休業日:月・火・水曜日
- 電話番号:03-5237-1778
- 地図:Googlemap
- 最寄り:都営地下鉄大江戸線「牛込柳町駅」東口より徒歩約6分
まとめ
「死ぬまで描く」と、その人生を芸術に捧げることを公言している草間彌生は、日本人が想像する「芸術家像」そのものだといえます。
ニューヨークでの「ハプニング」を通して世界中にその名が知れ渡り、水玉やかぼちゃのオブジェが親しまれるその前衛芸術家の愛と平和にかける意思は、私たちも引き継ぐべきもの。
直島や草間彌生美術館などに赴き、彼女の作品に触れ、アートの持つ意味について思いを巡らせたいものです。