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ミニマリズム、サイトスペシフィック、もの派、アルテ・ポーヴェラとの関係

コラム
【アースワーク】地球を素材とする大規模な作品 ランド・アートを解説
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石、土、木などのその地にある自然を用いて、アートを構成するランド・アート。アースワークとも呼ばれるこのカテゴリーは、どのような意味や影響を持っているのでしょうか。

自然との関わりの深い日本人の感性とも共通点のあるランド・アートは、日本独自の美術運動であるもの派とも興味深い共通点がみられます。ランド・アートがどんな現代アートであるのか、またランドアートに関わる作家たちについて紐解いていきましょう。

ランドアート、アースワークとは?

ランド・アートとは、「Landart」の名の通り「地形のアート」で、海岸や湖、砂漠など自然の土地を利用し造形した巨大なスケールの美術のこと。その表現の多くは土や地面を変形させることから、アースワークとも呼ばれます。

ランド・アートは「サイトスペシフィック」という、その「場」の特性との関連が最も深く、またミニマルアートやもの派の作品のようにギャラリーや美術館を移動することができないため、ランドアートの作品の鑑賞には現地に赴くか、または写真を通じて目にすることになります。

ランドアートは1960年代後半からアメリカのアートシーンにおいて、閉ざされた都市空間やギャラリーや美術館などの展示空間に対するアンチテーゼとして生まれました。その作家たちはミニマリズムと関連した人物が多く見受けられ、また同時代のアルテ・ポーヴェラとも共通した理論を持つことから、ランドアートとミニマリズム、アルテポーヴェラは同様の背景を持つアートの傾向であることがわかるでしょう。

またランド・アートは似たような印象の言葉である「環境芸術」とは異なり、ランド・アートが自然の土地を造形し作品を展開するのに対し、環境芸術とは建築や都市空間を総合的に捉えて制作された作品のことをいいます。またランドアートがあるところで彫刻的な動作を持つのに対して、環境芸術とは建築のジャンルにほど近いものであると考えられます。

ミニマリズムやアルテ・ポーヴェラとの関係

アルテ・ポーヴェラのヤニス・クネリスの作品
引用元:WikiArt
ランド・アートとミニマリズム、そしてアルテ・ポーヴェラは、「サイトスペシフィック・アート」という点において類似しています。またランドアートとミニマリズムは形態の最小化、ランドアートとアルテ・ポーヴェラには最小限の自然素材の加工という点で共通しています。

サイトスペシフィック・アートとは、特定の場所に設置することを考慮した美術のことであり、公園のモニュメント彫刻や環境芸術、また時にインスタレーションなども含むもの。

インスタレーションとはまた広義の言葉で、空間全体を網羅する展示の方法になります。ランド・アートとインスタレーションはおよそ作者がどちらを宣言するかに依存しており、自然素材を使用しその土地と関連深い作品であるとしても、作者がインスタレーションであると説いたならそれはランド・アートではなくインスタレーション作品、ということになります。

話を戻し、「場所性」という要素はミニマリズム、そしてアルテ・ポーヴェラにおいても重要な要素であり、たとえばミニマルアートの作品展開にはその空間とのバランスを操作することが必要不可欠です。

アニッシュ・カプーアの作品《雲の門》は巨大な鏡面のオブジェに映り込む周囲の景色がその作品の一部になっており、もしそのから作品を移動すればまた異なる外観の作品と変化するため、《雲の門》は設置された「場」に帰属する、つまりサイトスペシフィックの性質を持つ作品といえます。そしてランド・アートはロバート・モリスやカール・アンドレなどミニマルアートの作家が関わり、装飾的な造形を行わず最小限の形態をみせるという部分において共通しています。

また、アルテ・ポーヴェラとは1960年代後半のイタリアの美術運動で、絵の具や粘土、ブロンズなどといった西洋美術の伝統的な素材を放棄し、未加工の工業的な素材や自然素材を用い、ミニマルアートと同じく空間との関連性を重視するインスタレーションを行うもの。

これらのように作品を展開する「場」との関連を重視する傾向は、アメリカおよびアメリカに影響を与えた1960年代のアートに共通しています。場所性を重視すること、また自然素材を使用する点においては、当時のベトナム反戦運動に伴うヒッピー文化との関連も指摘されています。

もの派との関係

リチャードロングのアート作品
引用元:WikiArt
ランド・アートはまた、50〜60年代に日本で発展した美術運動の「もの派」とも類似点を見いだすことができます。

まず、もの派はアルテ・ポーヴェラやミニマルアートなど、当時のアメリカで流行していたアートシーンから影響を受け、日本で発生したもの。作家たちが「もの」と呼んだ未加工の自然素材や工業的な素材を用いて作品を展開し、そこにある「もの」と「場」、そして鑑賞者との相互的な作用を純化して浮き彫りにするという手法です。

ランド・アートは、自然素材を扱うという点においてもの派と共通していますが、ギャラリーなどの展示スペースに持ち込むのに対し、作者自身が自然の場に介入する形で造形をするという点では大きく異なっています。

ただ、ランド・アートの作家によっては、小規模な作品を屋内の空間に展示することもあり、その状況はまるでもの派の作品であるといわれても、違和感を覚えないかもしれません。特にリチャード・ロングの流木や石の屋内展示の作品は、その印象からもの派との類似性を強く感じられます。

太古の「ランド・アート」の例

ある意味で大地を支持体としてアートを構成するランド・アートですが、人類史という規模でみると、人間は太古の昔からランド・アートを行ってきたということができます。

たとえば、ペルーの高原で発見されたナスカの地上絵やエジプトのピラミッドが挙げられます。ナスカの地上絵は広大な盆地の地面に描かれた超巨大な図形であり、地面の褐色の岩を取り除き深層の明るい色の岩石を露出させることで描かれています。

上空から俯瞰しない限り何が描かれているのかわからないほど巨大な絵の数々であり、誰が何のためにそれらの絵を築き上げたのかはわかっていませんが、大地に描かれた図形として、古代のランド・アートであると見なされることがあります。

しかし、アメリカのポストモダニズムを専門とする美術批評家のロザリンド・クラウスはナスカの地上絵など考古学的な異物をランド・アートと結びつける傾向を批判しており、現代のランド・アートは考古学などの歴史的造形物からは断絶されるべきとする評価を下しています。

ランド・アートは現代美術としての背景があり、自然と人間との「立会い」という意味のほか、それぞれの作家、作品において個別の概念を持っています。自然に人工的な造形を施すという点ではナスカの地上絵とランド・アートの傾向は似ていますが、地上絵が作者、目的ともに不明である以上、コンテクストにおける類似点を見つけることはできないのです。

ランド・アートの代表作品

ランド・アートは屋外の自然物を造形したものであるため、風雨や波風にさらされるなどして現状としてすでに消滅していたり、劣化している可能性は高く、写真やビデオにその制作直後の映像を残しているのみです。

しかし、地球上の自然のどこかにランド・アートのような人工的で異質な造形があることで、それらを視点として自分たち人間と自然との関わりについてより考えを深めることができるかもしれません。ランドアートの代表作品について、重要なものをいくつかピックアップし解説していきます。

ロバート・スミッソン《Spiral Jetty》


引用元:WikiArt
ロバート・スミッソンは60年代にミニマルアートのアーティストとして頭角を現した美術作家、および論評価であり、ランド・アートの発展に大きく関わった人物です。スミッソンはまた作品《non-sites》のシリーズによりもの派にも大きな影響を与えました。

ロバート・スミッソンのランド・アートの代表作品としては1970年制作の《スパイラルジェティ》が挙げられます。アメリカ・ユタ州のグレートソルトレイクのローゼル・ポイントに設定されたこの作品は、湖の沿岸から伸びる渦巻き状の堤防を形作っています。

《スパイラルジェティ》は湖にある玄武岩、泥、塩の結晶で構成されており、制作年の水位の影響で作品は水中に沈み、年に数回しか湖面に現れなかったといいます。現在は干ばつの影響やディア芸術財団の管理により、その作品を水面に見ることができるようです。

グレートソルトレイクは塩分濃度が海水よりも濃く、塩湖のバクテリアが渦巻き状の堤防の周囲を赤く染めるとともに、塩の結晶で構成された作品は徐々に分解されていきます。そのように作品が自然の影響で解体されていくことについてスミッソンはコンセプトのうちに計画しており、《スパイラルジェティ》はスミッソンが研究していた閉ざされた環境の中で衰退していく「エントロピー」の表現、または記念碑のような存在として制作されました。

《スパイラルジェティ》はまた、ランド・アート作品全体を代表するアイコンのような存在としても知られています。

ウォルター・デ・マリア《The Lightning Field》


引用元:WikiArt
スミッソンの《スパイラルジェティ》と並び、ウォルター・デ・マリアの《ライトニングフィールド》もまたランド・アートの代表的作品として認識されています。《スパイラルジェティ》と同じく、現在もディア芸術財団が作品の維持を行なっています。

ディア芸術財団とは、アメリカ・ニューヨーク郊外にある「ディア・ビーコン」という現代美術館を設立し、環境芸術やランド・アートの動向を推し進めました。《ライトニングフィールド》は、このディア芸術財団の依頼により制作されたものです。

《ライトニングフィールド》はアメリカ・ニューメキシコ州カトロン郡の何もない平野に400本の金属のポールが整然と立ち並び、その名の通り雷が落ちることを暗示されたもの。一定の間隔で格子状に立ち並ぶポールが避雷針として機能したとき、この平野一帯を網羅した作品は、人間が到底扱うことのできないと思われていた雷を「素材」とするランド・アートとなります。

このランド・アートはアメリカの小説家にも大きな影響を与え、しばしば作品中でモデルとして取り扱われることがあります。《ライトニングフィールド》の等間隔に並んだポールの形態はしばしばミニマリズムと関連して語られることがあり、アメリカ現代美術の先駆の作品として重要な位置を占めています。

マイケル・ハイザー《City》


引用元:WikiArt
巨大なランド・アートを手がけるアーティスト、マイケル・ハイザーの作品《City》は、アメリカ・ネバダ州リンカーン郡のガーデン・バレーという砂漠にて、現在も制作中の巨大なランド・アートです。

《City》の政策は1972年からおよそ50年という歳月をかけたプロジェクトであり、アメリカで作られたランド・アートとして特に重要な作品とされています。《City》は内部が空洞になっており、建築にも似た様相ですが、幅2キロメートル×400メートルという地理的な規模で展開し、土とコンクリートを固めて作られた作品であり、まるでアステカのような古代の都市を思わせるもの。

ハイザーはこの《City》の内部を訪れることで、人間一人が到底把握しきれないほどの巨大な空間とそこに設置される彫刻により、宗教感情にも似た畏怖の心理状態を想起させようと試みます。

《City》はついに2020年に一般公開される予定。長きにわたって制作が続けられてきたランド・アートである《City》の完成形を目にすることができるとしたら、それは現代に生きる恩恵といえるのかもしれません。

まとめ

ランドアートは、ときに人間の想定するスケールを凌駕し、体験したことのないような感情を生み出すでしょう。またランド・アートは自然と人間の関わりかたの大きく問われるテーマでもあり、太古の昔から地球上の自然にどのように人間が「作用」しているのかを浮き彫りにするもの。

ランド・アートはその規模から実現に莫大な費用と時間がかかるため、巨大なものほど作品数が少ない傾向にあり、また支援者がいなくなっていったことで70年代には衰退していきました。しかしハイザーの《City》のように現在も進行中のプロジェクトもあり、現代アートとして今後の動きにも期待できそうです。

ランド・アートの作品は実際に目にすることは難しいですが、写真集や図録、カタログなどからその様子を詳しく知ることができます。20世紀後半のアメリカ現代美術の一端であるランド・アートについて、《City》の完成も注目するべき表現様式として記憶に留めておきましょう。

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