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特集
【知ってますか?】世界の現代彫刻家8人
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「アーティスト」といえば絵画や平面作品を描く「画家」を思い浮かべる人が多いですが、「彫刻家」の存在も忘れてはいけません。

彫刻は古代ギリシャ・ローマのブロンズ彫刻から始まり、ミケランジェロ、ベルニーニなどイタリアの大理石彫刻の巨匠から、現代の基礎彫塑の祖であるロダン、そしてブランクーシのモダニズムへ至り、現代彫刻までその歴史や哲学が引き継がれてきました。

そして今を生きる現代の彫刻は一体何を表現しているのでしょうか。日本から世界の現代彫刻を牽引する作家7人を紹介し、その芸術の内容を具体的に紐解いていきましょう。現代現代

日本の現代彫刻家を代表する【戸谷成雄】

戸谷成雄(とや しげお)は1947年長野県生まれ、現在は埼玉県に在住の現代彫刻家で、武蔵野美術大学名誉教授。1970年代からミニマリズムやポストもの派の流れで霧散した「彫刻」の哲学を再構築し、彫刻のモニュメント性や物質性を探求する、日本の現代彫刻家を代表する重要な人物です。

その作品は、木を主な素材としますが、従来の木彫のようにノミと金槌で掘るのではなく、重たいチェーンソーのみで荒荒しく削り出すもの。彫刻作品は長野県、そして秩父山脈の自然と向き合い生涯をかけて追求してきた《森》シリーズや、2000年代からは彫刻の「新」と「古」の対立する《ミニマルバロック》のシリーズを展開。

古代ギリシャ・ローマ彫刻から、イタリアのポンペイ遺跡の「人型」など、根源的な彫刻のあり方を問いながら大型の木彫作品を制作してきた戸谷は、2009年に紫綬褒章を受賞。ストイックな姿勢で、生涯を通して自身の彫刻論を筋立ててきました。

展覧会の経歴はシュウゴアーツ、ケンジタキギャラリーをはじめとして武蔵野美術大学美術館、広島市現代美術館での個展、またイタリアのヴェネツィア・ビエンナーレにも参加。戸谷成雄はフォーマルな「彫刻」というジャンルを再び日本の美術の軌道に戻した彫刻家として、日本人なら知っておくべき現代彫刻家であるといえるでしょう。

ミニマル・アート【カール・アンドレ】

カール・アンドレ(Carl Andre)は1935年、アメリカ・マサチューセッツ州に生まれ、現在はニューヨーク在住の「20世紀を代表する」と言わしめた現代彫刻家、および詩人です。

カール・アンドレは近代モダニズム彫刻の祖であるブランクーシに影響を受け、1950年代より木やアルミなどのブロックを組み合わせた彫刻を発表し、1965年よりロバート・モリス、ドナルド・ジャッドらとともに、装飾や説明的な色彩・形態を最小限に削ぎ落とした「ミニマル・アート」のグループの彫刻家の一人として活躍します。

そして「場としての彫刻」という定義を唱え、限りなく未加工の素材を床面に展開した《レヴァー》などの作品は、日本の彫刻を中心とした芸術運動である「もの派」というカテゴリにも影響を与えました。カール・アンドレは詩作などの執筆活動もしており、その彫刻作品はさながら立体の詩であるともいえます。

アメリカの抽象絵画を代表する画家、フランク・ステラと共同アトリエで制作し、互いに影響を請け合ってきたカール・アンドレはミニマル彫刻という分野で美術史に革新をもたらした現代彫刻家として覚えておくべきでしょう。

人気のポップ・アート【ジェフ・クーンズ】

ジェフ・クーンズ(Jeff Koonz)は1955年、アメリカ・ペンシルベニア州に生まれた現代彫刻家。《バルーン・ドッグ》という、バルーンアートの犬を模したステンレス製の彫刻で有名なポップ・アートの作家です。

ジェフ・クーンズはニューヨークにスタジオを持ち、30人のスタッフがファクトリーでの制作に割り当てられています。こうしたシステムは、日本だと村上隆も同様なスタイルで行なっている、ルネサンス芸術家や版画職人のような形式になります。

また、クーンズは現代彫刻家の中で初めてイメージ・コンサルタントを雇った人物。自身をアメリカ現代彫刻のアイコンとするべく、戦略的にアート・ビジネスに関わりにいった起業家でもあります。イタリア人ポルノ女優および国会議員であった「チチョリーナ」ことシュッターレル・イロナと結婚したことも含めて、非常アメリカらしいアーティストといえます。

そして一時期、クーンズはフランスの服飾ブランドの広告を盗作したとして、その作品を展示した美術館に阻害賠償の支払いを命じられるなどといったスキャンダルも起こしましたが、スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館のテラスにも作品が常設展示されている、実績のある現代彫刻家です。

「もの派」の重鎮【李禹煥】

李禹煥(リ・ウーファン)は1936年、大韓民国慶尚南道に生まれた現代彫刻家。日本大学文理学部哲学科卒業。ドイツやイタリア、アメリカなど欧米圏で活躍し、また1970年代の「もの派」を牽引した、日本を拠点に活動する作家です。

李禹煥は瀬戸内は直島に安藤忠雄が建築設計を手掛けた「李禹煥美術館」、また釜山市にギャラリーである「Space LeeUFan」を設立したビッグネーム。日本の現代美術の礎のようなアーティストで、日本独自に展開した、未加工の自然素材と工業製品などを利用したインスタレーションの運動である「もの派」を論理的に構築した彫刻家、美術家、および評論家としても知られています。

李禹煥が主導した「もの派」とは、そこに提示される「もの」と「自分」あるいは「自然」と「工業製品」といった対立軸を示すこと、またはそれらと「環境」との対峙を作り出すことで「もの」という極限化した存在を哲学する美術のあり方。自然石をそのまま利用しできる限り「作らない」という行動をとった難解な芸術ですが、このムーヴメントが日本において最新の現代彫刻家および「現代アート」に大きな影響を与えていることは、アートファンとして知っておくべき重要な知識です。

また李禹煥は多摩美術大学の名誉教授。学校の美術教育者としても名が知られています。

“サイト・スペシフィック”【リチャード・セラ】

リチャード・セラ(Richard Serra)は1938年、アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコで生まれた現代彫刻家。赤い板金を使った巨大な彫刻で知られています。

リチャード・セラはまたミニマリズムの彫刻家グループの一人であり、「サイト・スペシフィック・アート」の重鎮としても世界的に知られている彫刻家です。「サイト・スペシフィック」を日本語に直すと「場の特異性」といったものになりますが、その内容はというと、その彫刻を置く「特定の場所」をその作品のコンセプト中で最も重要視した、場に作品を帰属させるかたちの表現ということです。

つまりは、その場所の質や民俗学、社会学的見地やパブリック性がその作品の内容に深く関与するということ。サイト・スペシフィックな彫刻とは、その地質を操作する「ランド・アート」とは異なり、その「場」との関連が切っても切れない、特定の場に置くことのみを想定された彫刻ということになります。

リチャード・セラの彫刻はまた、巨大な鉄にかかる重力や重量感、ダイナミズムが見所ですが、中でもニューヨークの連邦ビルの前広場に置かれた作品《傾いた弧》は、その広場のスペースを圧迫しているとして苦情が寄せられ、撤去された過去があります。これに関してセラが訴訟を起こすなど、「サイト・スペシフィック」の重要性を考えるにあたり、美術史に残る重要な事件となりました。それらの事柄もきっかけとして、野外彫刻家としてもその存在を欠かせない人物です。

鏡と黒の現代彫刻家【アニッシュ・カプーア】

アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)は1954年、インドのボンベイ(ムンバイ)出身の現代彫刻家。2006年制作のイリノイ州・シカゴのミレニアム・パークに設置されている鏡面加工された巨大パブリック彫刻《クラウド・ゲート》は世界的に有名で、カプーアは同時代の彫刻家に非常に注目されている人物でもあります。

カプーアの作品は、《クラウド・ゲート》のように光を反射する鏡面仕上げの彫刻と、また「ベンタブラック」と呼ばれる可視光を99.95%吸収する非常に黒い塗料を使った作品も有名。その黒が使われた作品はまるでブラックホールのような底抜けの穴が開いているかのように見えます。カプーアはシンプルな形に鏡面、またあまりにも深い黒を施すことで、鑑賞者の錯覚を促す作品を制作する現代彫刻家なのです。

その「ベンタブラック」という超黒塗料は、現在カプーアが使用権を独占しています。「ベンタブラック」の使用権についてはスチュアート・センプルという他の美術家と抗争があり、次なるバージョンでありさらに黒い「ベンタブラック2.0」の発表もあったことで、この抗争の行方は注目を浴びています。

カプーアの展示はロンドンのテート・モダン美術館やニューヨーク近代美術館、イタリアのミラノなど世界各国で開催されました。日本では、2018年に別府市で開催された現代芸術フェアである「in BEPPU」が最新であり、今後の来日も期待されます。

また、カプーアの作品のなかでこの「ベンタブラック」を本物の穴のなかに塗った作品《Decent Into Limbo》は、あまりにも黒く立体感がわからないために、作品を覗き込んだ男性が穴に落下してしまうというハプニングがあったのも記憶に新しいものです。

「学び」の現代彫刻家【アントニー・ゴームリー】

アントニー・ゴームリー(Antony Gomely)は1950年にイングランドに生まれた現代彫刻家。天井や壁にまるで重力を無視したようにそびえるブロンズの人体のオブジェで知られています。

ゴームリーは、自身をモデルとした人体彫刻の製作において、人の体を「記憶」を保持する“場所”であると考える自身の哲学をもち、自己と他者、そして集団の肉体の可能性について研鑽を続けています。人体を「物質」ではなく「場所」として捉える哲学には仏教思想が根底にあり、これにはゴームリーがスリランカで3年間通した仏教の学びが由来しているでしょう。

また、ゴームリーはケンブリッジ大学で考古学、人類学、美術史の学位を取得、またゴールドスミス・カレッジやロンドンのスレード美術大学など、長きにわたって学問の場に身を置いていた彫刻家でもあります。

ゴームリーはラディカルに人間存在について研究する知性の現代彫刻家であり、その作品はイングランドをはじめイタリアで開催されるヴェネチア・ビエンナーレやドイツのドクメンタなどのグループ展でも展示されました。日本の初台オペラシティではその彫刻が常設展示されており、無料で鑑賞することができます。

日本の女性現代彫刻家を代表する【イケムラレイコ】

951年三重県出身の現代彫刻家、画家。海外での活躍などの経歴を経て、現在はドイツのケルン在住。国際的に高い評価を得ながらアーティスト活動を続けています。

2019年初春、国立新美術館にて行われた展示「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」は210点を超えるドローイングや陶器彫刻の作品が出展され、事前情報からすでに人気を博した展示となりました。イケムラは1970年代にスペインに渡り、その後スイスで画家として本格的に活動をはじめ、現在の拠点であるドイツに至るまでも海外生活を通して作品制作をしてきました。

イケムラの陶器彫刻に現れるモチーフは、少女や小鳥などの無垢な存在、また山や自然などといった日本神話的な存在といったもの。彫刻史や美術史のアカデミックな潮流に惑わされない素直な表現はファンが多く、むしろ民俗学的な作品として高い評価を得るでしょう。日本出身の女性作家を代表する現代彫刻家です。

まとめ

世界の現代彫刻家まとめ
彫刻は芸術の中でも古いジャンルであり、「現代彫刻」もクラシックな流れを汲んだもの。「現代アートの立体作品」と「現代彫刻」がどのような差を持っているかといえば、アカデミックな知識および古代イタリアから現代のアメリカへ続く彫刻家の歴史を踏襲しているかどうか、という部分が問われるでしょう。

また、彫刻家は現代彫刻も古代彫刻も、「人間のあり方」という学問と向き合ってきた存在です。「私たちはどこからきて、どこへ行くのか」という問答と真っ向から対峙し、また「人間」に対する「もの」の存在を根源的に問いなおすツールとしての価値があり、彫刻家はそれを生み出す人物たちであることを知っておきたいところです。

彫刻は哲学と深く結びついており、まるで難解な学問のようですが、ミニマルからもの派といった現代彫刻はその置かれる場の環境で表情を変える、単純に美しい美術作品であることも忘れてはいけません。学びも大切ですが、アート観賞においていつでも頭を使わずに「感じること」が必要不可欠な感覚であることも踏まえて、現代彫刻の深い世界を探求してみて下さい。

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