MUTERIUMMUTERIUM

SNSでも話題!アメリカの現代アートを制作するアーティストにインタビュー

現代アート
合法?違法?新宅睦仁の《たいままんじゅう》シリーズに迫る
当メディア(MUTERIUM)の画像使用は作者による許可を得ているもの、また引用画像に関しては全てWiki Art Organizationの規定に準じています。承諾無しに当メディアから画像、動画、イラストなど
全て無断転載は禁じます。

現代美術家の新宅睦仁(しんたく ともに)は、美術作家でありつつも調理師免許を獲得し、「食」と「社会」にまたがる時事的な問題意識をもって絵画を手がける異色の作家です。

現在はアメリカのロサンゼルス在住の新宅睦仁の作品の中でも、アメリカ国内の一部の州で合法化の動きが進んでいる大麻をコンセプトにした《たいままんじゅう》は衝撃的。

今回の記事では、その作品《たいままんじゅう》にフォーカスし、作品のテーマや描かれることになった経緯、制作プロセスについて探っていきます。

料理×現代美術。新宅睦仁とその作品テーマ

新宅睦仁(TomoniShintaku)は、食をテーマに現代アートを手がけるアーティスト。

1982年広島県出身で、九州産業大学芸術学部で美術を学んだのち、新宿調理師専門学校にて調理師免許を習得。このようにアーティストの中でも異色の経歴を持ち、食と社会との問題を取り入れた絵画作品が特徴的です。

《BENTO》シリーズや《JAPANIZE!》、《カップヌードルの滝》に《コンビニ弁当の山》シリーズなど、新宅睦仁の絵画は全て料理や食材そのものをモデルとしますが、制作過程において実際に被写体となる食事を料理し、撮影するところから始まるのもユニーク。例えば、作品《レザー料理》シリーズなど、実際に料理をし、レザー製品と組み合わせてセッティングし撮影した写真素材を参考に描かれています。

新宅睦仁のレザー料理

また、新宅睦仁はただ料理や弁当を描く現代作家というだけではなく、「現代アートとは何か」という問いかけに対しアグレッシブな姿勢を持ち、社会問題に真摯に取り掛かる作家でもあります。

2019年に新宅睦仁はカリフォルニア州のロサンゼルスを拠点に活動をはじめ、そこで《ONE BITE CHALLENGE》シリーズを開始。ひとつのハンバーガーを新宅睦仁自身とホームレスとのふたりで一口ずつ分け合い、コミュニケーションを取りながら一枚の絵画を仕上げるという作品シリーズであり、アメリカにおけるホームレス問題を取り上げました。

こうしてアートに社会問題を取り入れた作品は「SEA(ソーシャル・エンゲージド・アート)」とも呼ばれ、新宅睦仁はそこに属するアーティストであるといえます。SEAはコンテンポラリー・アートにおけるひとつの動向であり、新宅睦仁はその中でも作品制作の主軸を「食」に置き、社会問題を取り扱う現代美術作家です。

現在、新宅睦仁が拠点とするアメリカはホームレス問題をはじめ、人種間差別や遺伝子組み換え食品、人工妊娠中絶の規制など、社会問題の「るつぼ」でもあります。《APPLE》をはじめ、新宅睦仁がカリフォルニア州に移った2019年以降の作品はよりソーシャル的意識を感じられるでしょう。

そして、アメリカは新宅睦仁にとってアートとして取りかかるべき問題も多く、作品展開も期待されるなか、特に《たいままんじゅう》シリーズはSNSを通じて国内外で注目されました。

《たいままんじゅう》シリーズ

たいままんじゅう

タイトル たいままんじゅう (アメリカ×中国),Cannabis buns
制作年 2019
素材、技法 アクリル、大麻チンキ
サイズ 30 x 30cm(二枚ひと組: 30 x 60)

新宅睦仁の《たいままんじゅう》シリーズは、2019年から2020年現在まで継続した絵画作品のシリーズ。

広島県の名産であり、日本人なら誰もが目にしたことがある「もみじ饅頭」をモデルに、大麻の葉に見立てて作り写真素材を撮影したのち、絵画に描いた作品です。新宅睦仁が嗜好用大麻が合法であるカリフォルニア州に居住したのちに制作されました。

麻薬物質を含む薬草である大麻はがんの痛みを緩和させるとして医療用に使用が許可される国は増加の傾向にありますが、違法ドラッグとして所持・使用を禁止する国も多く、日本も右に並びます。しかし近年、北米では新宅睦仁が移ったカリフォルニア州をはじめとし、嗜好用の大麻所持も合法化された州もあり、大麻に関する是非はその人の思想や土地により分かれます。

新宅睦仁は、アメリカの州や国により異なる嗜好用大麻の合法、違法において違和感を感じたといいます。人や物が流動するグローバル社会において、「国境を越えられない大麻」に「封鎖的な世界」という影を重ね、作品化を試みました。

広島名産の「もみじ饅頭」はたびたび外国人観光客に「大麻をかたどっている?」と勘違いをされることもあるといい、もみじの葉が大麻の葉の形に近いことが見出されます。そこで、新宅睦仁はもみじ饅頭にカリフォルニアで売られている大麻オイルを染み込ませ、緑に着色することで「たいままんじゅう」を作りました。

ただ、新宅睦仁はただその「たいままんじゅう」という写真素材を撮影し描くのではなく、画面を二面用意し、一方は「たいままんじゅう」を描き、もう一方には通常のもみじ饅頭の絵を、「大麻を含ませた絵の具」で描き上げたのです。

たいままんじゅう制作風景

このようなそれぞれ二つの「たいままんじゅう」は、両者の間に隔たりのある各国の国旗から取り上げた色の背景に描かれます。絵画は「イリュージョン」であり「フィクション」でもありますが、《たいままんじゅう》は実際に描かれた「たいままんじゅう」の素材が含んでいる大麻、もみじ饅頭を描いた大麻入りの絵の具という、現実と虚像、そして「法律とアート」の入り組んだ絵画作品となりました。

《たいままんじゅう》の作品シリーズは、絵それ自体に大麻を含んでいるため、日本をはじめ大麻の所持が禁止されている国には持ち込めないというジレンマも持っています。新宅睦仁の《たいままんじゅう》シリーズは、作品がもつ衝撃的なコンセプトのためTwitterをはじめとするSNSで話題となりました。

新宅睦仁《たいままんじゅう》の制作秘話

たいままんじゅうの制作風景
大麻という日本では違法麻薬として扱われているものを使った絵画なんて滅多にありません。写真だけでは伝わらない、もう少し掘り下げて知りたい、気になることもありますよね。そこで、新宅睦仁本人に、作品《たいままんじゅう》にまつわる6つの質問をさせていただきました。

お答えいただいた新宅睦仁さんに、改めてこの場でお礼申し上げます。それでは、以下から制作秘話としてのQ&Aをどうぞ。

Q1. 作品《たいままんじゅう》に使用したもみじ饅頭は日本で買ったものですか?

A. 一度目は両親がLAに旅行に来た際に持参してもらい、二度目は郵送で、母親に送ってもらいました。こちらでも売っているものかと検索しましたが、見当たりませんでした。なので、結構コストはかかってます。

Q2. 《たいままんじゅう》の絵一枚につき、どれくらい大麻オイル(またはチンキ)を使用しましたか?

A. せいぜい1-2ml 程度です。含有量が問題ではなく、大麻成分が「含まれている」のが重要です。果汁1%でも堂々とオレンジジュースと銘打つのと同じことです。

新宅睦仁の作品

Q3. いくつか個人蔵のものがありますが、どのような方が買っていかれましたか?

A. 拙作を毎年一点は買ってくださる情熱的なコレクターの方です。本作はアメリカから日本に現物を販売することは法的に不可能だったため、ジークレー版画(エディション1のみ)で所有権を販売するという方法で販売させていただきました(正規価格の50%での販売)。

とはいえ、さすがに売れないと思っていたのですが、以下のようなコメントをいただきました。

『今回の作品群ですが、所有権関係の仕事をしているということもありますが、まさか占有改定の方法によりイリーガルを所有させイリーガルの壁を軽やかに越え、それを芸術にするという新宅様の試みに感服しています。

感想としてタイムリー過ぎますが、カテランのバナナを裏返して、さらに理知的にした表現ではないかと思っています。

このように偉大な3作品すべて個人が購入してしまうことに、ためらいがありますが購買欲に負けてしまいました。』

(※ジークレー版画とは、インクジェットプリンターによる限定版画のこと。)

4. 作品から大麻の匂いはしますか?

A. しません。基本的に、下地のジェッソに混ぜて塗布しているため、臭いは覆われてしまっています。

大麻を使った現代アート

5. 「たいままんじゅう」を制作し終えたときの感想は?また、特別な想いなど

A. もしかすると誰も気づいていないのではないかと思いますが、普段は綿キャンバスを使っていますが、この作品についてはあえて「麻キャンバス」を使い、大麻とマテリアル上で響き合わせています。本作の制作にあたり、大麻の関連書籍を読み漁りましたが、麻という植物自体は100種類程度もあり、それぞれに用途・性質が異なります。

しかし、日本人の多くはそれを混同しています。その辺りの混乱を狙ってもいます。例えば、麻素材の衣服は夏に涼しく着れるなどと普通にファッション誌などでも言及されますが、よくよく考えれば、それと大麻とはどう違うの?というような疑問です。

制作し終えた時の感想は、この作品に限らず、いつも特にありません。私の制作スタイルとして、アイデアを構想し、作品素材を撮影し、フォトショップでドラフトを作成した段階で、私の中ではすでに完成しているので、感動はありません。ただ、作業を終えたというだけです。

SNSで話題の現代アート作品

6. 最後に一言お願いします

たぶん、日本の人のイメージからすると、大麻=悪で、ダメ、ゼッタイよろしく、一度でも使えば皆頭がおかしくなると思っている人が大半かと思いますが、狂人が、私のような理路整然としたコンセプトが組み立てられますかと、私は言いたい。

また、この作品の着想は、日本のもみじと大麻が似ているのではないかと、ある日思ったことです。それでネットで調べて、そう思う人がいるのではないかと、裏付けをとるために検索しました。あまり多くはありませんでしたが、そう勘違いする人もいるようです。

つまり、誰か外人の知り合いに、それって大麻に似てるねと言われたのではなく、私自身が勝手にそう思い、そう思わない?と働きかけているということです。

海外のもみじはカナダのメイプルリーフのように、全然違う形状ですし。

また、最新作の二作品は、CBDオイルのみの使用なので、日本でも展示可能です。日本ではTHC成分は違法、CBD成分は合法となっています。そもそも、近日東京で行われる展示のために用意したものです。

まとめ

大麻ともみじまんじゅうを使ったアート
現在LAでTomoni Shintakuとして活躍中の新宅睦仁は、《たいままんじゅう》をはじめとし絵画表現において様々な試みを行なっています。

また2019年の春以降、渡米後の新宅睦仁の作品は2018年の作品と比較し、より先進国の社会をモデルケースに進行していることがわかります。

アーティストがその置かれた環境で作品の内容が変化することは自然の流れであり、社会的アートを構築する新宅睦仁がアメリカに赴き、その地で制作を試みたことで、作品の内容がより濃厚でリアリティのあるものとなったことはファンにとっても喜ばしいことだったでしょう。

近々日本への帰国予定もあり、新宅睦仁の今後の作品展開もより期待されます。新宅睦仁の経歴やその他の作品について気になった時は、こちらの記事もご参考ください。

関連記事
No Comments
    コメントを書く