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現代アーティストのおしゃれなアート作品を紹介

現代アート
シンパシーを「描く」美術作家・吉澤美香とその美しい絵画
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美術館やギャラリーの美術、芸術作品には、その作品の数だけ、ありとあらゆる情報があり、あらゆる物事が表現されています。宗教的表現から哲学的思考、社会の時事的な内容など、特に現代のアートの方向性は多岐に渡ります。

そして「感情」を表現したアートも様々。自分一人だけの感情表現ではなく、より抽象的に高めた表現は、不思議と鑑賞する人々の心や記憶と結びつき、思いもよらない共感が生まれます。

今回は、感情にまつわる表現を抽象的なスタイルで手がける美術作家、吉澤美香に関する情報とその作品について探ってみましょう。

アートセンセーション「超少女」の美術家・吉澤美香

吉澤美香(よしざわ みか)は、1959年東京都生まれの美術家。港区にあるギャラリーアートアンリミテッドの所属作家であるほか、現在は、多摩美術大学の油画専攻の教授も兼ねています。

吉澤美香自身も多摩美術大学の出身であり、大学院まで進学し絵画を学びました。在学中から、横浜市民ギャラリーや世田谷美術館でのグループ展の出展、東京日本橋の駒井画廊で個展の開催など、大いに活躍を見せた作家です。

学生時代より、吉澤美香はプールの絵や都会的な日常生活の絵画で知られるデビッド・ホックニーなど欧米のポップ・アートに影響を受け、また80年代当時に忘れられがちだった「オーソドックスな絵画」と向きあったとされます。ビビッドな色彩と勢いのある筆跡は、現在も吉澤美香のスタイルとして継続してみられるもの。

また吉澤美香は20代にして、世界的な美術の祭典であるドクメンタ8(ドイツ、カッセル)やサンパウロ・ビエンナーレに出展するという快挙を成し遂げた当時の若手美術作家の女傑であり、現在まで日本の絵画の世界で中心的に活躍しています。

1986年8月号の『美術手帖』では、吉澤美香含め80年代に登場した女性作家たちが特集され「超少女」と命名されました。そうして、彼女たちはインスタレーションを中心とした手法で、日本のアートシーンを華やかに推し進めたアーティストたちとして知られることになります。

この女性作家たちの作風にとりわけ共通性はなく、ただ「才能があり躍進する女性作家」というくくりでしたが、この「超少女」のキャッチコピーは、どこか90年代から2000年代に登場した女性の邦楽シンガーソンガーの活躍とイメージが似ているかもしれません。

またこれまでの展示経歴として、1997のいわき市立美術館での個展「吉澤美香の部屋」からはじまり、2005年の同美術館による「作家の現在−絵画とドローイングの間に」など、いわき市立美術館での継続した個展の開催や、所属ギャラリーであるギャラリー・アートアンリミテッドでは吉澤美香は「お抱え作家」であり、キュレーター側からの信頼も厚い美術家であることも伺えます。

作品のスタイルとギャラリーアンリミテッドの個展

吉澤美香の作品は版画などの通常の平面作品のほか、80年代に絵画世界の中心であった「行為のための」インスタレーションの手法を取り入れつつ、作品形態を飽和させることなく探求を重ねてきました。

ただ、吉澤美香の作品全体に共通するのが「ビビッドな色彩」と「少女時代を彷彿とさせるモチーフ」、そして「感情にまつわる表現」。

ポップアートの影響を思わせる都会的で鮮やかな色彩は、モノクロの版画作品を除き全ての作品にみられます。そして、動物の形のキーホルダーや根付けなどの具体的な「おもちゃ」のようなアイテムや、抽象的な星や花にちょうちょのような形は少女のような感性を彷彿とさせます。

そして、2015年以降、近年の吉澤美香の作品には「名誉/利益/恐怖」「共感」など「感情」を表すテーマを含み、また「ユポ紙」という特殊なフィルム合成紙にグアッシュ(アクリル絵の具)を滑らせ描くという、一定の様式で平面作品を手がけています。

特に2017年にギャラリーアンリミテッドで開催された吉澤美香の個展「共感−EMPATHY」では、「戦争をなくすにはどうすればいいか」という、誰もは一度は考える問題をテーマに掲げました。ある著書の「共感によって平和な世界を目指す」というエピソードから「共感」というタイトルをつけ、人々や生き物が感情によって平和を作り出せるという希望を暗示しています。

また、2015年に発表した作品のテーマである「名誉/利益/恐怖」とは戦争の三つの要素であり、近年の吉澤美香が現代の世界情勢や戦争、平和について、美術作家として真摯に目を向けていることが伺えます。

個展「共感 – EMPATHY」に影響を与えた本

吉澤美香は、ギャラリーアンリミテッドでの個展「共感 − EMPATHY」で
は、2015年に同ギャラリーで開催された個展「名誉/利益/恐怖」に関連して、戦争に関する意識を基にしたテーマで展示作品が手がけられました。

いま日本で生活している人にとって、幸か不幸か、あまり戦争が実際にどんなものであるかは想像し難く、ニュースや報道写真でその様子をうかがい知ることしかできません。ただ、戦争に関する歴史や、人々のエピソードなどの情報からその実状を垣間見ることは可能です。

特に、実話の小説などの記録は、読み手に著者の感情の「共感」をさそうこともあるでしょう。吉澤美香もまた、著書『テロリストの息子』を読み、「他者の痛みへの共感を持って平和な世界をめざす」というテーマのもとに美術作品の制作に臨みました。

その『テロリストの息子』という本は、1993年のNY世界貿易センタービルの爆破に手を染めた犯罪者を父親にもつ著者ザック・エブラヒムのノンフィクション。テロリストの息子に生まれながら、家族への迫害、差別。憎しみ渦巻く環境に置かれながらもテロの道を選ばなかった著者の実話が語られています。

この本をヒントに、吉澤美香は個展「共感 − EMPATHY」を構成したとか。吉澤美香の作品についてより理解を深めたい時には、この著書を読んでみることをおすすめします。

吉澤美香が手がけるアート作品

吉澤美香の美術作品は、ビビッドな色彩と少女的モチーフが特徴。特に版画作品などはインテリアのアートとしても人気です。

これまで個展や美術館に展示されてきたものも含め、吉澤美香の水彩や版画の作品を一覧で紹介していきます。

わ−18

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制作年 2006
素材、技法 合成紙、グアッシュ
サイズ 220.5×218.5cm
エディション -/30

吉澤美香の作品には、ひらがな1文字+番号という独特なタイトルがつけられています。

また、吉澤美香は布キャンバスや木製パネルのようなを使わず、ユポ紙やアクリル板などツルツルした支持体を使います。インクやアクリル絵の具を素早く走らせ描く独特なスタイルで、吉澤美香の美術作品を見ればタイトルやキャプションを見なくても「これは吉澤美香の作品だ」とわかるほど。

この《わ − 18》は2006年にいわき市美術館で開催された個展に出展されました。ツルツルした支持体に水彩絵の具を走らせる手法は1989年に発表した作品が契機であり、今日まで吉澤美香特有の技法としてみとめられています。

同様にいわき市美術館では1997年に吉澤美香の大規模な個展が開催されており、今後の吉澤美香の展覧会も期待されます。

へ−71

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制作年 1993
素材、技法 ドライポイント、アクアチント
サイズ 40×46.5cm
エディション -/30

吉澤美香は、1990年代に銅版画の技法を用いた作品シリーズを手がけました。

「へ」から始まる作品番号(作品名)のモノクロのこの版画は、一見、吉澤美香の特有の都会的な色彩から離れますが、特徴的な疾走感は健在。

ただ、感情的に絵筆や版画のニードルを動かすのではなく、吉澤美香の描く抽象的なモチーフは幾何学的な図形のように整ったフォルムを持っており、この版画からもその様子を見てとれるでしょう。

版画には合計の制作数である「エディション」があり、この《へ−71》を含んだ同シリーズは、1993年に東京都小金井市にある双ギャラリーが版元となりそれぞれ30のエディションが制作されました。また《へ−70》から《へ−77》の7枚の版画は版画集として出版されています。

原板を除いて版画は唯一のものではなく複数枚制作されるため、一般的な社会人のアートコレクターでも手に入れられるもの。しかし吉澤美香の美術作品も、手に入れられる時期は限られるかもしれません。いま、アート販売サイトやAmazonなど通販サイトで商品として購入が可能です。

わ−96(ソバ)

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制作年 2007
素材、技法 紙、シルクスクリーン
サイズ 56.1x62cm
エディション -/50

こちらのシルクスクリーンの美術作品シリーズには、虫や植物など自然の生き物好きの吉澤美香の好みが現れています。吉澤美香の作品に独特な雲形のオブジェに、背景の抽象的な植物のモチーフがかわいらしくも生き生きとした版画です。

またこのシリーズのタイトルには、吉澤美香の絵画におなじみの「ひらがな1文字+番号」に加えて、特別に植物や昆虫の名前がつけられているのも特徴。

吉澤美香は、2007年から神奈川県足柄の「岡部版画工房」というシルクスクリーン工房でこのシリーズの制作を始めました。岡部版画工房は草間彌生や横尾忠則など、多くの有名作家が利用した版元。

大手の版画工房だからこそ実現した繊細な色彩で、吉澤美香のファンを魅了したシリーズです。エディションはそれぞれ50ずつあり、オンライン通販で商品展開されているほか、ギャラリー・アートアンリミテッドでも取り扱われています。

た−61(名誉)

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制作年 2015
素材、技法 グアッシュ、ユポ紙
サイズ 100x100cm

このシリーズは、吉澤美香が所属するギャラリー・アートアンリミテッドで2015年に開催された吉澤美香の美術展「名誉/利益/恐怖」に展示されました。吉澤美香の美術作品に特徴的な技法である、ユポ紙というツルツルした特殊紙にグアッシュで流れるように描かれた植物の模様が、おどろおどろしくも美しい絵画です。

タイトルにはそれぞれ個展の題にもある「名誉/利益/恐怖」のどれかがつけられており、それぞれの属性を表したアイテムが画面に配置されています。たとえば、この《た−61(名誉)》は、トロフィーやメダルなど人の「名誉」にかかわるモチーフが緻密に描かれました。

これまでの吉澤美香の作品、なかでも版画作品はエディションも多く、見る人の目に心地よい商品としての側面もありましたが、2015年のこの個展以降は制作テーマが「戦争」に移り、非常にシリアスな美術作品として展開しています。

またこの「名誉/利益/恐怖」のシリーズは、吉澤美香の作品に特有のビビッドなカラーは健在ですが、これまでにない「黒」の色が使われることで、どこか不穏な気配を漂わせています。

おおよそ左右対称の画面も不気味であり、全体として「戦争」の要素を直接的に表現しているわけではなくとも、私たち(日本人)の住んでいる安全な日常の世界の一歩先で起こっている、残酷な現実を覗き込んでいるかのような感覚を誘ってます。

た−97

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制作年 2017
素材、技法 グアッシュ、ユポ紙
サイズ 150x150cm

この作品は、2017年に吉澤美香の新作発表展であり、2015年の「名誉/利益/恐怖」に続くテーマで開催された個展「共感−EMPATHY」の作品シリーズです。

「共感により平和な世界を目指す」というタイトルのもと、黒のグアッシュによる疾走感溢れる抽象的な模様、緻密な描写と鮮やかな色彩で描かれた手前の動物のキーホルダーやフィギュアが特徴的。

手法として「名誉/利益/恐怖」のシリーズと同様の構成ですが、背後に描かれるモチーフは一層抽象化し、使われる色彩も一作品につき二色とかなり絞られています。

また、吉澤美香はこの個展のテーマに関して、こうコメントしています。

蚊は虫取り網で生け捕りにして窓から外に放す。室内に侵入してきたムカデもゴキブリも虫取り網で逃がす。彼らも、殺虫剤や捕食者から生き延びてここに至り、そしてこれからのストーリーがあると思うからだ。嫌うことを教え込まれても寛容な生き方を選択することはできる。共感は憎しみを超える。

http://www.artunlimited.co.jp/past/2017mika.html

吉澤美香は虫や植物好きですが、「共感」のシリーズに上のコメントのような虫や植物は登場せず、吉澤美香が決して作品の内容をステートメント通りに言語化することがないということがわかります。また、美術作品を言葉で説明づけることがないのは、ある意味では美術作家としての矜持であり、絵画としての存在をより高める働きでもあるのです。

まとめ

吉澤美香は、過去に「超少女」としてデビューしましたが、美術家としての存在感は「女性」かどうかに関わらず、国内で活躍するアーティストとして非常に大きなもの。

絵画や版画のアート制作に対して肩肘張らないスタンスもまた吉澤美香の作品の中の一つの魅力であり、作品からは自然体の感性が受け取れることも多くのファンを獲得する理由。

吉澤美香の作品は、所属ギャラリーであるギャラリー・アートアンリミテッドのほか、国内の美術館にて現代美術作家の特集がされるときには高い確率で展示され、今後の吉澤美香の作品を目にする機会も多いのではないでしょうか。

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