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リモワなども有名なニューヨークの現代アーティストのアート作品

現代アート
ポケモンやディオールともコラボを手がけたダニエル・アーシャムとその作品
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「ポケモンやディオール、アディダスなど世界的ブランドとコラボを手がけるアーティストがいる」ということは特にファッションの世界では知られていますが、そのアーティストが誰であるかという具体的なことまで詳しい人は案外稀です。

白を基調としたそのコラボレーションを手がけたアーティストの正体は、ニューヨークを拠点に活動するダニエル・アーシャムという名の人物。今回の記事では、ダニエル・アーシャムが手がけたコラボレーションや、オリジナルのアート作品について解説していきます。

ニューヨークの現代アーティスト、ダニエル・アーシャムとは

現在ニューヨークを拠点に活動するビジュアル・アーティストのダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)は、アートや建築、パフォーマンスなど多角的な作品を手掛ける人物。また、フランスのハイブランドであるDiorやスポーツブランドのadidas、日本の伝説的なゲームのポケモンなど、あらゆるブランドとのコラボレーションに引っ張りだこのデザイナーでもあります。

よって、ダニエル・アーシャムは、日本においては「現代アーティストとして」より「ブランドとのコラボレーション」として有名。しかし、彫刻作品をメインとするアート作品も手がけるれっきとしたアーティストであり、その知名度や人気は近年、日本でも徐々に高まっています。

ダニエル・アーシャムは1980年にアメリカのオハイオ州クリーブランドに生まれ、幼少期をフロリダ州のマイアミで過ごしました。マイアミはアメリカの最南東に位置する、セレブに人気な南国的な気候のリゾートでもありますが、ハリケーンが通過するエリアでもあります。ダニエル・アーシャムが12歳の時、ハリケーン「アンドリュー」が彼の家を破壊しました。

このトラウマは、ダニエル・アンドリューの作品において背景にあり続けることになります。ダニエル・アーシャムの作品テーマは「フィクションとしての考古学(Fictional Archeology)」であり、現代のプロダクトや有名キャラクターのイメージを用いて、まるでそれらが破壊された未来にいるかのようなアートを手がけます。

真っ白に朽ち果てたような作品は化石のようで、ダニエル・アーシャムの作り出す世界観は「私たちの行き着く先の未来」を感じさせるもの。しかし、廃墟のような作品はストリート・ファッション的でもあり、悲惨な未来よりもクールな印象です。

またダニエル・アーシャムの作品が全体として白いのには理由があり、それはダニエル・アーシャムが先天的にもつ色覚異常が影響しています。その「白」の作品はダニエル・アーシャムの作品におけるトレードマークでもあり、またアディダスをはじめとしたコラボレーションも、隅々まで白いプロダクトが中心。

ただ、2015年からは色覚補正メガネを着用し、大多数の人と同じ色彩感覚により色のある作品を展開。2018年に渋谷、六本木で発表されたレリーフ作品は、現代を象徴するキャラクターを用いたものですが、特徴的なグラデーションの色使いが見られました。

ダニエル・アーシャムは現在ニューヨーク在住で、ニューヨークのMoMA PS1や新美術館、マイアミの現代美術館をはじめとしアメリカ国内の多数の美術館やフランスの美術館に展示されており、2020年の1月にはパリのPERROTINで新作展が開催。今後の日本での作品発表も期待されます。

ブランドと手がけたファッション・コラボレーション

ダニエル・アーシャムの作品は全体としてファッション的要素を感じさせますが、本人はアートとファッションコラボについては平行線ではなく、別の仕事と捉えています。アート作品発表とコラボしたプロダクトは同時発表ではないため、注意して情報を手に入れましょう。

ダニエル・アーシャムのコラボレーションとして有名なのは、日本発の今や世界的に有名なゲームである「ポケモン」、世界的に有名なフランスのファッションブランド「ディオール」、ドイツ製の高品質スーツケースブランドの「リモワ」のプロダクトデザインやそれらのモニュメント的作品です。

それぞれ、詳しくみていきましょう。

ポケモン


日本で生まれ、今や世界中の大人も子供も夢中のゲーム「ポケットモンスター」。これまでポケモンが現代アーティストの共同企画を行ったことはなく、2020年2月に始動したダニエル・アーシャムとの試みが初めてのアーティストコラボレーションとなります。

このプロジェクトはダニエル・アーシャムの作品シリーズ「Relics of Kanto Through Time」に連なり、ポケモンのキャラクターをモチーフとした彫刻群として制作し、ダニエル・アーシャムとポケモン両方の魅力を発信していくというもの。彫刻はダニエル・アーシャムの作品に特徴的な白を基調とし、ピカチュウなどの関連キャラクターの像が色あせ、朽ちた姿となってみられます。

ダニエル・アーシャムの制作における根源的なテーマである「フィクションとしての考古学」は「1000年、2000年後の未来を想像させるもの」であり、このプロジェクトは「未来の世界で発掘されるポケモン」を想定して作られます。

ダニエル・アーシャムも幼少期からポケモンに親しんでいた一人であり、ポケモンを身の回りにあったポップカルチャーや世界のひとつであると捉えて制作に臨んだといいます。このプロジェクトはアートファンにとっても、ポケモンファンにとっても注目の動きです。

ディオール

フランスの高級ファッションブランドの「Dior」は、”サマー 2020 メンズコレクション” においてダニエル・アーシャムとコラボレーションアイテムを発表しました。

アートディレクターのキム・ジョーンズ率いるディオールのメンズコレクションチームは、「Future Relics(未来の遺物)」をテーマとしたダニエル・アーシャムの風化したような白の作品をアクセサリーやシューズ、バッグにあしらい、「身に着けるアート」に昇華。また、2015年からダニエル・アーシャムが色覚補正メガネで見た色彩の世界を表現した淡い青のスニーカーもラインナップに登場しています。

この「DIOR AND DANIEL ARSHAM」のシリーズは2020年1月から日本のDiorブティックでも販売されているため、ショーウィンドウで目に入ることもあるでしょう。

リモワ

ドイツの高品質スーツケースメーカーである「リモワ(RIMOWA)」とのコラボレーションが手がけたのは、「ダニエル・アーシャムがデザインしたスーツケース」ではなく、なんと「ダニエルアーシャムのアート」そのもの。

この「RIMOWA × DANIEL ARSHAM ”ERODED ATTACHE EDITION”(イローデッド・スーツケース)」という名のコラボレーションですが、これまでリモワがコラボレーションしてきたファッションデザイナーとは異なります。ダニエル・アーシャムという、リモワがアーティストと手がける初のコラボレーションは「コラボレーションアイテム」ではなく、ダニエル・アーシャムの作品そのものをスーツケースに納めて販売するという異色なものでした。

ダニエル・アーシャムは、ディオールのコラボレーションと同じく「Future Relics」の作品シリーズから、リモワのスーツケースを形どった白い石膏の彫刻を展開。このアーティストコラボレーションのアイテムは500個の限定販売であり、ダニエル・アーシャムの作品であることを保証する証明書つきです。

ダニエル・アーシャムのアート作品

ダニエルアーシャムのコラボレーション作品は知っていても、オリジナルのアートは知らない、という人は割と多いのではないでしょうか。ダニエル・アーシャム自身の作品を知ることで、あらためてディオールやポケモンとのコラボレーションの価値がどれほどのものか把握できそうです。ダニエル・アーシャムのアート作品について紹介しましょう。

Hiding Sitting Figure

制作年 2018
素材、技法 クオーツ、亜セレン酸、ハイドロストーン、鋼
サイズ 109.2 x 24.1 x 129.5

ダニエル・アーシャムは、空山基や横山祐一をはじめ、国内外のポップな作風を広く扱う渋谷のギャラリー「NANZUKA(ナンヅカ)」の所属作家であり、2016年よりおおよそ一年ごとに個展を行なっています。

この作品《Hiding Sitting Figure》は2018年にNANZUKAで開催された個展「Architecture Anomalies」に展示されたもの。ダニエル・アーシャムの作品全体に特徴的なハイドロストーン(特殊石膏)の純白と、壁に埋まっているようなフォルムが非常に印象的です。

個展のテーマ「アーキテクチャー・アノマリーズ」は、「科学的常識からは説明できない逸脱を起こした現象、構造」を意味し、これらダニエル・アーシャムの非現実を生み出す作品シリーズの環境学への深い関心をも表しています。

また、この作品に見られるスニーカーは2018年9月に発売されたアディダスとのコラボレーションのスニーカーであり、ダニエル・アーシャムが自身の作品にコラボレーションプロダクトを取り込んでいる面白さも垣間見られます。

Glacial Rock Eroded Leica III Camera

制作年 2015年
素材、技法 氷堆石のかけら、ハイドロストーン
サイズ 13.3 x 6.4 x 3.2

この作品は、ディオールやリモワのアーティストコラボレーションでも見られた「Future Relics」シリーズの作品のうちのひとつ。

カメラは、ダニエル・アーシャム自身のお気に入りのアイテムであり、普段から持ち歩いている私物でもあるといいます。カメラを形どった作品は複数制作されていることからも、カメラがダニエル・アーシャム自身にとって特別なオブジェクトであることがわかります。

「未来の遺物」という、1000年、2000年後に発見されたかのように風化した現代のプロダクトを表現したシリーズのなかで、カメラの作品はダニエル・アーシャム自身に属する「遺物」なのです。

Untitled_holding hands(paint)

制作年 2019年
素材、技法 インクジェットプリント、シルクスクリーン、クリスタルのかけら
サイズ 53.5 x 37.5

2019年に渋谷パルコがアート・カルチャーを発信していく拠点として再オープンし、その記念としての特別展にてダニエル・アーシャムと日本のアーティストである空山基のコラボレーション展が開催されました。

空山基は「セクシーロボット」、また立体や写真と見まごうようなリアリティある描写の平面作品で知られており、この展示「ダニエル・アーシャムx空山基 コラボ展」での展示作品は二人の作品世界がクロスした特別なもの。

この平面作品《Untitled_holding hands (paint)》は、ダニエル・アーシャムが2009年に制作した、ダニエル・アーシャム自身と妻の手をモデルに作った作品から空山基が着想し、手がけた平面作品。片方の手をロボットにし、オーパーツ(時代にそぐわない不明の発掘物)のように描かれています。

ダニエル・アーシャムの「未来の遺物」、そして空山基の「ロボット」が組み合わさった斬新なSFのような世界観であり、コンテンポラリーアートの新たな発信地である渋谷パルコのリスタートにふさわしい展示であったことでしょう。

まとめ

現代アートは、その時代の世論や時勢を表すもの。アーティスト、ダニエル・アーシャムの作品は、そのなかでも「もしも世界が終わったら」という、誰の心にも持ちうる悲観論を描き出していますが、ストリートカルチャーやポップカルチャー、人気キャラクターを取り入れた作品は全体として「クール」なイメージを持ち、見る人を不安な気持ちにはさせません。

そのように「鑑賞者の感情を刺激しない」ことで、より作品の世界観をニュートラルな心持ちで感じることができる、というのもダニエル・アーシャムの作品の魅力。悲観的な未来ではなく、一歩引いたところから未来の様子を想像したり、自分のいる時間軸を忘れてしまうような、不思議な感覚をもよおします。

ダニエル・アーシャムのような「魅せる」アーティストの作品はまた、現代アート鑑賞の入り口としてもおすすめされるもの。今後のコラボレーションや展覧会も期待されるでしょう。

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