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海外でも活躍する現代アートのアーティスト作品を解説

現代アート
日本を代表する現代美術家、宮島達男のLED作品と個展情報
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1987年以降、LEDライトを用いたインスタレーションや映像作品により「生と死」を表現してきた現代美術家がいます。

「光と時間」を媒体としアートを手がける宮島達男について、その経歴と作品を最新の個展の情報とともに追っていきましょう。

「時の海」のアーティスト、宮島達男

1957年東京都出身の宮島達男(みやじま たつお)は、LED(発光ダイオード)のデジタルカウンターを用いた作品で知られる現代美術作家。現在は京都造形大学と東北芸術工科大学の客員教授でもあります。

1988年、宮島達男が31歳の頃には、ベネッセアートサイト直島にも展示されているLEDを用いた作品《Sea of Time》の原型をベネチア・ビエンナーレの若手部門に出展。アーティストとして国際的にデビューを果たします。

LED作品以外にも、CGやビデオを使用したインスタレーション作品も手がけており、東京都原美術館の常設展や六本木などでその作品を目にしたことがある人も多いでしょう。

宮島達男の学生時代は、東京都芸術大学の油画科で学士を、また同大学で絵画専攻の修士号を1986年に習得しています。そうして絵画を学んできた宮島達男ですが、絵画において表現の限界を感じていたところ、LEDを用いた手法を考えついたといいます。

そうして、宮島達男の代名詞ともいえるLEDを利用した作品の制作が始まったのは1987年のこと。LEDの発明は1962年ですが、72年までは赤色LEDのみであり、青色LEDが発明されたのは1990年のこと。そのため宮島達男の作品のなかでも、90年代なかばまでは赤色LEDのデジタルカウンターが主に使われていました。

宮島達男の作品の媒体として代表的なLEDのデジタルカウンターですが、多くの作品の中で、表示される数字に「0(ゼロ)」がないということはご存知でしょうか。実は、デジタルカウンターは1から9の数字までしか表示をせず、また全てのカウンターが数字を刻む速度は一定ではなく、個別の速度を持っています。

宮島達男は仏教の影響を強く受けており、これらのLEDが示しているのは「輪廻転成」の思想。LEDが刻む数字はまるで個々の生命の時間であり、1から9へと時間が進み、また1へと戻るということで、生と死の永遠性という宮島達男のもつテーマが現れています。

「LED」と「死生観」という、宮島達男の作品に欠かせない要素は、宮島達男の作品に継続して現れており、特に「生と死」の要素はLEDを用いない作品にも表現されます。たとえば、《時の蘇生−柿の木プロジェクト》では、「第二次世界対戦の原爆投下により長崎で被爆した柿の木の種を世界各地に植える」という計画を発案しました。

《時の蘇生−柿の木プロジェクト》は、原爆のもたらした強烈な爆風と熱線の中で生き残った一本の柿の木の苗木を「平和の象徴」として、植樹する里親を探すというもの。「被爆の柿二世」を通し、「時の蘇生」を目指しました。

このことからも、宮島達男の表現にはただLEDを用いることが特徴なのではなく、「時間」の表現が肝心な要素であることがわかります。

「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」

これは、現在東京都現代美術館に展示された宮島達男の1998年の作品のタイトルですが、この言葉は宮島達男の全ての作品の根底に置かれているもの。宮島達男は、仏教的な死生観をもってLEDなど現代の人間のメディアに置き換え、作品に表現する現代作家なのです。

直島の展示

宮島達男の作品は、パブリックアート(公園など公共の場に展示される美術作品)も多く、日本各地をはじめとして韓国やアメリカのニューヨークにラスベガス、中国の上海など、世界各国に常設で展示されています。

日本に展示されている宮島達男の作品の中では、特にベネッセアートサイト直島に展示されている《Sea of Time ’98》が代表的。

《Sea of Time》は、宮島達男の最初期のLED作品であり、直島に展示されているのは98年に再制作されたもの。直島の家プロジェクト「角屋」のギャラリー空間に設置された作品であり、現在も常設展示されています。

「家プロジェクト」は、直島の古い家屋を元の姿に復元する計画。1998年、宮島達男はそうして復元された角屋に《Sea of Time ’98》を設置しました。

《Sea of Time ’98》はオリジナルの《Sea of Time》と異なり、LEDのデジタルカウンターの数値のスピード設定が当時直島に住んでいた住民125名によって個別に設定されています。それにより、デジテルカウンターの数値はより直島に住んでいる生きた人のスピードを反映し、リアリティが高く地元直島にとっていっそうモニュメンタルな作品となりました。

2018年には、設置から20年後の「継承」イベントを開催し、1998年にデジタルカウンターのスピードを設定した人々や遺族たちが集まり、カウンターのスピードを再確認しました。

宮島達男の作品はこのように、人々の関係性にも深くかかわり、人々が自分や故人の持っている(いた)命の時間とあらためて対面する、という仕掛けも含んでいるのです。

宮島達男のLED作品

1987年以降、宮島達男はLEDなどデジタルメディアを駆使した作品を発表し、国際的に有名な日本の現代作家として知られています。ここから代表作の《Mega Death》をはじめ、宮島達男のLED作品について解説していきます。

《Mega Death》

制作年 1999、2016
素材、技法 LED, IC, 電線, 光センサー
サイズ 365.1 x 3579.7 x 2.5 cm(高さ、横幅、奥行き)

宮島達男の巨大なLED作品《Mega Death》は、1992年の《Death of Time》、2003年に手がけられる《Deathclock》の三部作からなる「Death」シリーズのひとつとして、1999年のベネチア・ビエンナーレに向けて制作、出展されました。

暗い部屋に浮かび上がる2400個もの青色LEDのデジタルカウンターが壁面を埋め尽くし、鏡面になった床に反射する青い光が幻想的でもある作品です。ただこの美しさに反して、《Mega Death》は「人為的な大量死」をコンセプトにもち、20世紀に起きた戦争や大量虐殺など、人間がもたらした大勢の人間の死を概念的に描いています。

仏教哲学では人間の命を「生と死」の繰り返しであると捉えており、作品の中で1から9の数字を刻む青色発光ダイオードでそのサイクルを示しています。この表現は宮島達男のLED作品に共通する仕組みですが、《Mega Death》ではその数字が「0」に至るとき、LEDの光が消えて暗闇になり、致命的な「死」の瞬間を文字盤にもたらします。

各個のLEDディスプレイは異なる時間を刻み、「ゼロ」の瞬間の暗闇が点滅するさまは、「人口大量死」を鑑賞者の目の前に視覚化します。ただ時間が刻まれるリズムは《Sea of Time》のように個性がなくそれぞれ一定であり、「個性のない人間の生死」という、人間による冷酷な大量殺戮の歴史を示しているのです。

《Mega Death》は度々、宮島達男が手がける冷たく崇高な代表作として知られています。2016年にオーストラリアのシドニー現代美術館にて宮島達男の大規模個展が開催された時には再展示され、現代社会に生きる人々に「生と死」の重厚なありさまを知らしめました。

《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》

制作年 1998
素材、技法 LED, IC, 電線, アルミニウムパネル、鉄
サイズ 288 x 384 x 13 cm(高さ、横幅、奥行き)

東京都現代美術館のコレクションとして収蔵されているこの作品は、宮島達男の作品を総合するコンセプト「それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く」をそのままタイトルに冠したもの。

構造を《Mega Death》と同じくしながら小型であり、赤の光が印象的なこの作品は、宮島達男の自身のアート作品にかける思想を体現しています。東京都現代美術館にはこの作品を見るためだけに訪れる人も多く、宮島達男の作品全体の制作意図が凝縮されたような作品となっています。

また、宮島達男は「Art in You(芸術はあなたの中にある)」という考え方をもうひとつの作品コンセプトの根底においています。アインシュタインとタゴールの「美は人間を通してのみ実現される」という会話にインスピレーションを受け、宮島達男は「芸術(美)は人間の心との相互作用の中に存在する」という意識をもって作品制作を続けてきました。

それにより、宮島達男は自身のアートにより「伝える」ということを重視しています。《Mega Death》やこの作品のように、宮島達男の作品が「生と死」を表しているということを知れば、たちまち作品を見るだけでその意図が伝わるのも、宮島達男の目的だとわかるでしょう。

《Counter Void》

制作年 2003
素材、技法 白色ネオン、フィルムガラス、アルミニウム、電線、IC、時間管理プログラム
サイズ 510 x 5390 cm(高さ、横幅、奥行き)

宮島達男の作品はLEDのものだけではなく、あらゆる電子機器を用いて作品を手がけます。

2003年に東京都のギャラリーSCAI THE BATHHOUSEとテレビ朝日の協賛で実現した《Couter Void》は、壁一面のネオン灯がダイナミックな光のインスタレーション。六本木ヒルズけやき坂前に展示されたパブリックアートであり、2011年以降、東日本大震災への哀悼のため消灯が続いていましたが、2018年の3月11日には被災者への追悼の意を込め再点灯されました。

ネオンの眩い光の壁には、宮島達男の作品の代名詞ともいえるデジタルカウンターの巨大な数字の影が1から9までの数字を刻んでいます。この作品は昼と夜で背景と数字の光が反転し、昼間は背景が消灯し数字のライトが灯り、夜には背景のネオン灯がまばゆく点灯し、数字が消灯します。

この《Counter Void》が設置された六本木の夜は娯楽に満ちた街として輝いています。宮島達男はその人間の欲望に満ちた街にあえて「生と死」にまつわる作品をもたらし、また震災への追悼の意を込めることで、六本木の街をゆく人々に深く「死」を考える機会を提供しました。

最新の個展情報

宮島達男は1988年のベネチアビエンナーレに若手作家として参加し、LEDを駆使した作品を発表して以降、世界的に活躍するアーティストとして知られています。

そのため現在も世界各地でグループ展や個展が続けざまに開催されている状況。現在も2019年から2020年にかけ、アメリカのサンタバーバラ美術館で個展が開催されています。また、2020年2月までロンドンのサマセットハウスのグループ展にも参加。

国際的に活躍を見せる宮島達男であり、直近の日本での展示は2019年の東京都現代美術館のリニューアルオープンを記念してのコレクション展「ただいま/初めまして」。宮島達男のコレクション作品である《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》が展示されました。

また、2019年8月中国の上海民生現代美術館では過去最大級の個展「宮島達男:如来」が開催され、日本でもその情報が美術手帖に掲載され、話題を呼びました。

個展「宮島達男:如来」では、宮島達男を代表するLEDの作品群と、新作のインスタレーションやパフォーマンス作品の映像や写真などが展示され、宮島達男がこれまで向き合ってきた「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」の3つのコンセプトを体現したといいます。

2020年の宮島達男の展示に関する情報はまだ未定ですが、宮島達男の作品についてもっと知りたくなった時には、ネット上でも販売されている宮島達男の著書「芸術論」を読んでみることをおすすめします。

まとめ

宮島達男の作品は、見る人に少なからず衝撃を残します。宮島達男はLEDを駆使して芸術作品の制作を始め、現代にも知られているアーティストの数少ないひとりであり、「生と死」という芸術におけるビッグテーマと正面から対峙している人物でもあります。

ある意味では、宮島達男の作品は仏教の思想を強く反映していること、死生観をはっきりと打ち出していることから、仏像や曼荼羅にかわる「現代の仏教美術」とも呼べるのかもしれません。

現代の人間にとってLEDをはじめとしたデジタル機器、また数字などの「データ」は非常に身近な存在であり、ありとあらゆる情緒や倫理観がその情報に埋もれてしまいがちです。

そこへ、身近であり単純なテクノロジーを用いて私たちに「人の死とは何か」を問いかける宮島達男の作品がどのように働きかけているかを見ると、宮島達男は日本に限らず、世界的に「必要とされている」作家であるのかもしれません。

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