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原始的生命体の彫刻家・加藤泉の作品と個展の情報
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加藤泉は2000年代から海外で注目を集め、世界的に活躍する日本の画家、彫刻家。2019年から2020年にかけて、東京都の原美術館と群馬県のハラ ミュージアムアークにて個展『加藤泉 -LIKE A ROLLING SNOWBALL』が同時開催されます。

いま日本中で注目を集める加藤泉という作家、そして「原始的な生命体」と評される作品の特徴や、個展の情報について解説していきましょう。

加藤泉のプロフィール

加藤泉(かとう いずみ)は1969年生まれ、島根県出身の男性アーティストです。武蔵野美術大学で油彩を学び、1992年に大学を卒業後に数年の空白を経て作家活動を開始しました。

加藤泉のアートは一貫して人間をモチーフにしていますが、はっきりと「人間」とはいえないプリミティヴィズム=原始的な様相を示します。2008年の作品《無題》など、アフリカン彫刻のようにワイルドで力強く、かつ繊細なバランスの彫刻作品が最も知られているでしょう。

加藤泉の作家活動は2019年で25年間にもおよびますが、人間の顔とかたちを基にした表現を貫いてきました。加藤泉は表現において「人間が一番難しい」と語り、その今日まで美術の歴史で追いかけられ続けた普遍的な「顔(肖像)」や「人体」というテーマをひたむきに追いかけています。

ときに、横たわっていたり、ちょこんと座っている胎児のような「人間」の作品は、顔の模様や付属する「アイテム」が微妙に変化することが。それは加藤泉自身の「ブーム」といった個人的流行から発するものであるとインタビュー記事で語っており、その造形表現に対する自由な精神を伺うことができます。

加藤泉のこれまでの経歴においてめざましいのが、2005年にアメリカ・ニューヨーク市のJapan Society Galleryで行われた展覧会『リトルボーイ:爆発する日本のポップカルチャー』の出展。加藤泉の彫刻および絵画作品は一躍話題となり、2007年のヴェネチア・ビエンナーレに招待されました。

また、2017年にはパリのポンピドゥーセンター・メッスの『Japanorama』展に参加。2018年には加藤泉の過去最大の個展が中国・北京のレッドブリック美術館で開催され、加藤泉はより日本が誇る世界的に活躍するアーティストとして知られるようになったのです。

作品解説

加藤泉の作品はそのプリミティブな様相から、鑑賞者の根源的な恐怖を誘発させることがあり、2chやツイッターをはじめとしたインターネットコミュニティなど、アートシーン以外において「ホラー」として話題になったことも。

しかし、美術について、そして加藤泉について真面目に知ることでこういった誤解も避けられるでしょう。加藤泉の作品について、その内容と合わせて解説をしていきます。

作品のコンセプト

加藤泉の作品には、一貫して「人間」の表現を見ることができます。

それはただ写実的な描写ではなく、抽象化され概念化された「人間」の形であり、「胎児のよう」または「昆虫のよう」と例えられるフォルムをまとっています。加藤泉の絵画作品も彫刻作品も、表現される「人」の形態は、日本の風土に関連したものよりもむしろ、モダニズムの時代に西洋のアートシーンで憧憬を集めたアフリカン・アート的な様式に近く、人間存在の根源的な「ソース」をたどるようでもあるでしょう。

加藤泉は「人間」を表現することについて、「人間に対して手紙を書いているようなもの」と語ります。作品に見える可愛らしさ、不気味さ、そしてときに見せる不気味さや暴力性は、加藤泉の人間に対する愛情でもあり、また警告でもあるかもしれません。

また加藤泉の作品タイトルは「無題」が多く、そのためにより作品のコンテクストを深読みすることなく素直に作品そのものに向かい合って鑑賞することができます。理解しづらい難解な“現代アート”や“ソーシャルアート”とは異なり、思考を手放し、表現された「人間存在について」の佇まいからただ「感じる」ことのできる美術作品です。

彫刻作品

加藤泉は元々大学で油彩画を専攻していたため、その立体作品は彫刻におけるアカデミズムには触れません。絵画や平面作品の表現をそのまま立体に置き換える形といえますが、人間の等身大以上に具象化されたその彫刻のダイナミズムは鑑賞者を圧倒するでしょう。

加藤泉が彫刻作品に使う素材は木や石などといった自然素材やシリコンなど。その上にアクリル絵の具でペイントを施すものであり、モチーフは平面作品とリンクしているため、加藤泉の彫刻は「立体物を支持体とした絵画」ともいえます。

また、フィギュアに使われるソフビを素材とした小型の彫刻も2014年ごろから見えはじめます。原美術館で2011年から販売されているソフビの人形も、美術館のコラボレーショングッズとして、また誰にでも手に入れることができるアート作品として人気。2019年の原美術館、ハラ ミュージアムアークでの個展の展覧会グッズも期待されます。

絵画・リトグラフの作品

加藤泉は、まず作家活動において絵画制作から踏み切った作家です。スタンダードにキャンバスに油彩で手がけるほか、ファブリック(布地)や動物の皮など異なる質感をつなぎ合わせて、アクリルやリトグラフで描いた作品も、今回の個展で注目すべきもの。

加藤泉の絵画は、「人間」の顔や体を中心として、マーク・ロスコやバーネット・ニューマンなどの抽象表現主義絵画の画面構成のようなバランスが特徴。画面のなかに二面性があり、人間の「正」「負」の対立を思わせます。

また、原色の色使いも特徴的であり、黒を基調とした色鮮やかな配色はより作品の「原始性」を高め、触れてはいけないような生命の根源的な「おそろしさ」を付随しています。

総括的に、加藤泉の作品にみられる抽象表現やプリミティビズムは19世紀末から20世紀初頭のモダニズムのエッセンスを引く印象があり、西洋美術史をその美的感覚の根源としているように考えられます。その点が、加藤泉の作品世界にどこか西洋的な風土を感じられる所以なのでしょう。

原美術館 個展『加藤泉 -LIKE A ROLLING SNOWBALL』

2019年7月13日から2020年1月13日にかけて、東京都品川区の原美術館、そして群馬県にある別館のハラ ミュージアムアークにて、加藤泉の個展『LIKE A ROLLING SNOWBALL』が開催されます。

英語のタイトルを日本語にすると「雪玉が転がるように」となりますが、これは加藤泉が人の人生を「雪玉のよう」と評したことが由来。

原美術館は1979年に元々個人邸宅として建築された美術館であり、その展示空間は小規模ながらも、庭園も合わせて穏やかな空気の流れる現代美術専門のアートギャラリーです。品川区の閑静な住宅街に佇む美術館で、これまで国内外から多くの注目すべきアーティストの展覧会を行ってきました。

そして、ハラ ミュージアムアークは原美術館の別館として、群馬県の高原に磯崎新の設計で実現した美術館です。都内から日帰りで訪れることのできる高原リゾート地に位置し、コレクション展のほか企画展も開催しますが、今回、2019年の加藤泉の個展は原美術館とハラ ミュージアムアークで同時に開催されます。

原美術館では加藤泉の彫刻と新作の絵画も合わせ、69点の作品が展示され、ハラ ミュージアムアークでは過去作の未発表作品を含めた145点の作品群が展示されます。個展『LIKE A ROLLING SNOWBALL』は、2019年までに25年にものぼる加藤泉の集大成を2つの異なる展示環境で見ることのできるチャンスとなるでしょう。

展覧会の見どころ

加藤泉 個展『LIKE A ROLLING SNOWBALL』の見どころはまず、原美術館に展示される新作の絵画です。

2つのキャンバスからなる新作《無題》は、加藤泉が一貫してきた「人間」をテーマにした肖像の作品。まるで洞窟のような顔面からは、みてはいけないような神秘、または人間の人生の旅路を覗きこむかのよう。

そして、加藤泉の新たな表現手法である、布や皮のコラージュからなる画布に描いた絵画を天井から吊るし、空間全体を使ったインスタレーション作品も、同じく原美術館で展示される見どころとなります。

また、ハラ ミュージアムアークでは展覧会の関連イベントとして、ライブや対談、バスツアーが開催されます。

ライブで演奏するバンドの「THE TETORAPOTZ」のメンバーにはアーティストの加藤泉本人があり、スペシャルゲストのスナッチとのコラボにくわえて加藤泉が趣味で続けてきたというドラム演奏を聞くことができました。対談は小説『楽園のカンヴァス』で知られる小説家の原田マハとのトークイベント。

ハラ ミュージアムアークでは膨大な展示数と、豪華キャストのイベントが実現し、原美術館では都内からほど近くも、都会の喧騒から離れた閑静な美術館で加藤泉の作品世界に浸れる充実した展覧会となっています。

展覧会情報

加藤泉 個展『LIKE A ROLLING SNOWBALLS』

【会期】
原美術館:2019年8月10日(土)〜2020年1月13日(月/祝)
ハラ ミュージアムアーク:2019年7月13日(土)〜2020年1月13日(月/祝)
開館時間11:00〜17:00

【会場】
原美術館:東京都品川区北品川4-7-25
ハラ ミュージアムアーク:群馬県渋川市金井2855-1

【入館料】
一般:1,100円
大学・高校生:700円
小・中学生:500円
(原美術館メンバーおよび学期中の土曜日は小中高生無料)

【展覧会グッズ】
展覧会カタログ:3,800円
加藤泉 限定スペシャルリトグラフ:58,000円
各館限定カラー 加藤泉 ソフトビニールフィギュア:6,500円
展覧会限定トートバッグ:3,000円
(価格は全て税別)

【イベント】
THE TETORAPOTZ ライブ:8月24日 ハラ ミュージアムアーク
原田マハ×加藤泉 対談:10月27日 ハラ ミュージアムアーク
講演会:11月16日 原美術館
他、ハラミュージアムアークにてイベント開催時にバスツアーを催行

【その他】
主催:原美術館
特別協力:ペロタン

まとめ

日本のアーティストは、まず海外で名が売れてから日本に「逆輸入」されるという形が多く、加藤泉も同じくこのパターンで作家として自身のアートの価値・価格を上げてきた人物。日本国内のみで現代アーティストが出世するのは難しいことですが、加藤泉のような作家がより日本のアート市場を活性化してくれることを願うばかりです。

また、日本で人気のあるアート作品は奈良美智の作品のように「キャラクター性」のあるものが目立ち、加藤泉の作品もそのラインに並び立つように思えますが、それにしては加藤泉の作品は「人間」というアートにおける根源的な部分に迫るものであり、よりシリアスな態度での鑑賞が必要とされます。

ときにラスコーの洞窟壁画の描かれた「洞窟」そのものを覗き込むような、人間存在の深淵に迫る加藤泉の描く「ヒト」と対峙すれば、映し鏡のように「自分は何者なんだろう」と考えさせられるかもしれません。個展『LIKE A ROLLING SNOWBALL』は2020年明けまで開催されますが、長い会期に惑わされると加藤泉の作品全体に触れる機会を逃してしまいます。思い立った時に、原美術館、そしてハラ ミュージアムアークを訪れてみましょう。

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