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NY在住のアーティスト ミカ・タジマとアメリカのアートシーン
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ミカ・タジマは2017年に東京のTARO NASUで行われた展覧会『TOUCHLESS』で話題となった、ロサンゼルス出身で現在ニューヨーク在住のアーティストです。

彫刻、絵画、メディア・インスタレーション(動画)やパフォーマンスなど多くの媒体で表現される空間のコンセプチュアルアートは、アメリカを中心として世界で評価され、いまも注目を集めています。

そのグローバルな活躍を見せる日本人アーティスト、ミカ・タジマのプロフィールと作品について紐解いていきます。

ミカ・タジマというアーティスト

ミカ・タジマは現在ニューヨーク在住のアーティスト。2000年から現在に到るまで、アメリカを中心として世界中で美術作品を制作・発表してきました。

ミカ・タジマは人々の生活を包囲しているテクノロジー、そして人間社会についてリサーチし考察を経て作品制作を続けています。ミカ・タジマがどのようなアーティストであるのか、まずはその生い立ちを追っていきましょう。

世界を旅した幼少期と学生時代

ミカ・タジマ(Mika Tajima)は1975年、カリフォルニア州のロサンゼルスに生まれました。

学者の両親を持ち、幼少期は世界中を旅していたことから「世界はそんなに小さくはない」と考えていたミカ・タジマは、物心ついた頃からアーティストになることを心に決めていたそうです。

両親に美術館やコンサートへ連れていってもらうなか、幼い頃に聴いた音楽から作品制作への影響を受けているとインタビュー記事の中で語っています。

日本人の両親を持つミカ・タジマですが、アメリカで生まれ育ったこともあり、自身のアイデンティティーはアメリカ人である同時に、日本とアメリカの二つの国を知っているという誇りを持っているといいます。

現代アートの世界の中心部であるニューヨークに憧れ、両親の反対を押し切って移住し、現在も拠点としています。

またミカ・タジマは1997年、ペンシルベニア州のブリンマーカレッジ(Brym Mawr Colledge)にてファインアートと東洋美学の学位を、また2003年にコロンビア大学芸術学部にて修士号を修得しています。

そして2007年にはArtadia Awardを受賞するなど、ミカ・タジマは確固とした学習からその実力を発揮してきた、インテリジェントの美術作家なのです。

日本とアメリカのアートの環境の違い

アメリカやヨーロッパだけではなく日本でも個展やグループ展に参加するミカ・タジマは日本ではなく、アメリカをアート制作の拠点として選択しました。

その理由からは、日本とアメリカの美術という世界の舞台裏で、その環境の大きな違いが露わになっています。

まずひとつとして、美術教育の違い。アメリカ、特にニューヨークは世界中の新しい文化が集まる場所であり、絵画や彫刻などをはじめとし、写真や建築、そしてこれらのどのジャンルにも属さない最新の現代アートに触れることができます。

そのために老若男女誰もが先進的なアートに触れられ、世界でもトップクラスにレベルの高い美術教育を受けられます。

一方で日本の美術教育は後進的な部分があり、新しい文化よりも伝統的な文化、それも日本の伝統文化ではなく西洋の印象派の時代あたりで一般的なアートにまつわる知識が止まってしまっている印象があります。

次にアートコレクターの数について。欧米文化ではアート作品を購入し、一般家庭で持つのは当たり前のことであり、特別な日のプレゼントなどでもギャラリーで作品を買うことがあるとか。

そうしてアートの需要が多くあることで、実力のある若手アーティストも育ちやすい環境だといえます。しかし日本では、一般的にアート作品を購入することは稀ですね。

ミカ・タジマは、人間社会とテクノロジーに関する綿密な調査と深い考察から独自の現代美術を構築してきました。

ミカ・タジマの作品は受け入れやすい外見の裏で、最新のコンピューター技術を駆使し難解なプロセスを経て実現していますが、もしもミカ・タジマが日本のみで活動をしていたら、その作品群は技術的にも成り立たなかったかもしれません。

アメリカの美術における良い環境がミカ・タジマという日本人アーティストを世界的に活躍できる人物へと後押しした、という要素も含まれるでしょう。

ミカ・タジマのその他の活動

ミカ・タジマは2003年、エリック・ツァイとハウイー・チェンらとともにアートグループ「New Humans」を設立し、作品制作を手がけました。

「New Humans」はミュージシャンとアーティスト、そしてデザイナーが協力したプロジェクトであり、バンドによるサウンドとインスタレーション、パフォーマンスを行なうもの。2008年にはミカ・タジマの作品《The Double》のインスタレーションとコラボレーションし、ノイズパフォーマンスが開催されました。
The Doubleの作品画像はこちら

アメリカのアーティストたちは「マインデッド・コミュニティ」という、お互いを支援するコミュニティを形成して、お互いの作品をコレクションしたりインスピレーションを与え合います。

ミカ・タジマもブルックリンのコミュニティに身を置き、アーティスト同士のコミュニケーションから自身の文化を高め合っているのです。

ミカ・タジマの作品

ミカ・タジマの作品を紐解く上で重要になるキーワードには、

  1. サウンド
  2. テクノロジー
  3. 人間を取り巻く環境

などという、通常は目には見えない概念的なものが挙げられます。

科学者の両親のもとで育ち、アート制作のアプローチも学者のように目的のリサーチから徹底的に考察を経て手がけるミカ・タジマの作品を、これらのキーワードをもとに解説していきましょう。

ミカ・タジマの初個展『Disassociate』の作品

ミカ・タジマは彫刻を自身の制作における専門的な基礎としており、テクノロジーと科学や情報解析を行うなかで、多くの作品をペインティングよりも立体作品として表現しています。

2007年にニューヨークのエリザベス・ディー・ギャラリーで行われた初個展『Disassociate』に展示された、ミカ・タジマの初期作品もパーテーション(仕切り)の形態をとった立体作品、およびインスタレーション作品でした。

作品は下部にキャスターの取り付けられた可動式のパーテーションに幾何学的な図形がペイントされたもので、近年のテクノロジー技術を直接使用する以前のミカ・タジマの作品において、このようなパーテーションの形式は多用されてきました。

この展示に至る3年前まで、ミカ・タジマはアメリカで汎用的なオフィス用キュービクル(箱型の高圧受電設備)を発明したインテリア建築会社であるハーマン・ミラー社を調査し、モダニズムの「失敗」と企業/個人間の隔たりを確信しました。

展覧会『Disassociate』のパーテーション=壁の作品は、このキュービクルのメタファーとなっています。

また、このパーテーションを用いたインスタレーションは、ミカ・タジマの関わるアーティストグループ「New Humans」のパフォーマンスの舞台ともなりました。

ミカ・タジマは展覧会の期間中何度もパーテーションの位置を動かしてインスタレーションの様相を変え、ある意味で展覧会の期間中にもアート制作における実験的な試みを繰り返していたともいえます。

Disassociateの作品画像はこちら

Negative Entropy

《Negative Entropy(否定的な無秩序化)》という作品は、2012年から制作を手掛けるミカ・タジマが様々な場所の音源を集め、グラフ化した図をもとにした織物のペインティングです。

ミカ・タジマは自身のこの作品シリーズを「アコースティック・ポートレイト」と呼んでいます。

フィラデルフィアのワークショップでプロジェクトを開始し、織物工場やトヨタの工場など、全て違う場所の機械産業の発する音波を記録し、ジャガード織機で仕上げられました。

この作品は、触れることのできる物質と目に見えない非物質、アナログの「感覚」とテクノロジーが関係しています。

テクノロジーとは、今この瞬間から刻一刻と過ぎ去り、新しいものが生まれ、古いものは廃れていくもの。その生まれては消えていく音の波を切り取り、ファブリックという形に残した作品です。

Meridian 

この光のインスタレーション作品のシリーズのひとつは、パリのパレ・ド・トーキョーで開催された展覧会『Sous le regard de machines pleines d’amour et de grâce(愛と恵みに満ちた機械の視線の下で)』で展示されたもの。

ミカ・タジマはこの作品を独自に開発したプログラムを用いて、ツイッターなどインターネット上のニュースにある言語を解読したデータをアルゴリズム化し、スマートLEDに反映させることで光を変化させています。

この光はツイッター上の「ムード」を示すもの。データの統計的分析から人々が何を感じているかを予想し、作り出された“未来のツイート”を付近のモニターが表示します。

そこから生まれると計算された「ムード」が光の変化をもってこの天井から吊るされた布で包まれたペンダントライトのようなオブジェから発せられ、うつくしくもあり、同時に無機的な恐怖も生み出しているように感じられます。

ツイッターという不確実な情報の世界を読み取るこの作品のアルゴリズムはたびたび誤字脱字などのエラーを起こします。

しかし、ミカ・タジマはこのエラーを「詩的な表現である」と捉え、その不穏な事象を意図的に表示させます。

人々が「わかっていること」そしてそこに常に潜んでいる「捉えきれないもの、わからないこと、不確定な情報」の恐ろしさが、テクノロジーによって目に見える「ムード」となり可視化されているかのようです。

Force Touch

この《Force Touch》という作品は、2017年に東京のTARO NASUギャラリーで行われた展示『TOUCHLESS』のもの。

この展覧会『TOUCHLESS』は、身体と精神の内外における経験に焦点を当て、身体的感覚の“受容器”と必ず起こる生理的反応と、そこに抗おうとする心の「受け入れと拒絶」という精神のバランス、そしてその人間を取り巻く環境を紐解こうとしています。

日々進化していくテクノロジーと機械、そして対する人間の体の限界点について言及するテーマの中で展開されたこの作品《Force Touch》は、スマートフォンなどのタッチスクリーンとトラックパッドのテクノロジーに関連したもの。

金メッキされたジャグジーのジェットノズルを手のひらのツボ(Meridian point)にしたがって壁面に配置された彫刻作品であり、鑑賞者に呼応してノズルから空気が強制的に排出され、目に見えないエネルギーで接触を図っています。

Pranayama E

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New pranayama piece for upcoming show @taronasu_tokyo 🌬

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展覧会『TOUCHLESS』の作品にはインドの古典医学であるアーユルヴェーダの思想が取り入れられており、この彫刻作品《Pranayama》がその思想を最も表現したもの。

まるで身につける医療器具、あるいは拘束器具のような木製の彫刻に《Force Touch》と同じくジャグジーノズルが取り付けられており、「プラナー」というアーユルヴェーダの教えにある正しい呼吸のコントロールを強制させる、というイメージに基づいています。

テクノロジーの発展と、それに付随する身体改造の必要性を感じさせるような未来的な構成作品であり、機械文明に人間の身体が置いてけぼりにされていく恐ろしげな感覚、そしてこの彫刻作品の優美な造形が対照的な印象を与えます。

まとめ

ミカ・タジマはその人間社会に向ける深い洞察力と最新鋭のコンピューター技術を駆使し、アートの世界の中心部において現代美術の先端を切り開いてきました。

間違いなく、アートの歴史の中でも最も新しい表現を実践している人物だといえます。

「現代美術」「コンセプチュアル・アート」は時に不快であり、受け入れがたいものもあるなかで、ミカ・タジマの作品は美的な感覚を持ち合わせ、鑑賞者に心地よく“問いかけ”をしています。

しかしその“問いかけ”は、決して私たちの感情やイマジネーションに寄り添うものではありません。

テクノロジーは私たちを助け、社会をより住みよい場所にするべく生まれたもの。しかし、そのテクノロジーの発達が人間の身体や心を置き去りにするほど加速していった結果、逆に私たちの首を絞めかねない…ということを、ミカ・タジマの作品は提示しています。

このミカ・タジマという先進的なアーティストの今後の発表も、目をそらすことなく注意していきたいものです。

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