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独特の世界観、色彩の虜に。ミロコマチコの絵本や絵画

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絵画に絵本。ミロコマチコの世界に夢中
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ミロコマチコは1981年大阪生まれの画家であり、絵本作家です。

猫をはじめとした動物や植物の絵はファンが多く、これまで多数の個展を開催、またイラストレーションや絵本、児童文学の分野で高く評価されています。
最近では全国の美術館を巡回する「いきものたちの音がきこえる」が大きな話題になりましたね。

その魅力溢れるミロコマチコの世界について、紐解いていきましょう。

ミロコマチコとは

ミロコマチコ(河村真智子)は、1981年生まれ大阪府枚方市出身のアーティスト。絵本作家であると同時に画家でもあるという人物です。ミロコマチコがその絵画や絵本のなかでモチーフとして扱うのは、主に動物。愛猫家としても知られ、膝の上に猫を乗せて作品を描いている姿もみられます。

京都精華大学文学部にて児童文学を学び、その後アートスクール梅田に進学してから絵本の制作を開始。はじめは人形劇作家を目指していたところ、物語を作る楽しさに目覚め、絵本作家を志したといいます。

2012年に絵本『オオカミがとぶひ』をもってデビューし、第18回日本絵本賞大賞を受賞。その絵本の世界への電撃的な登場をきっかけとして、絵本作家としてのキャリアを進めます。

ミロコマチコは、これまで多数の賞にて入選、受賞してきました。その中でも雑誌『illustration』が主催するコンペ「ザ・チョイス」には2007年から2010年まで通年で入選しています。ミロコマチコを選んだ「ザ・チョイス」の審査員の中には、リリー・フランキーや画家の山口晃といった名も。

絵本の制作を始めたアートスクール時代、当時の学生は東京の出版社へ自分の作品を売り込みに行く人が多い中、ミロコマチコは自分から売り込みに行くよりも、コンペに作品を出すことで業界の注目を集めます。

当時のミロコマチコの絵は、今と比べるとテーマが都会的な印象で、動物よりも人間の絵を描いていました。その「人間像」とはミロコマチコ自身の自画像であり、自分が体験したことを題材として描いていましたが、「人間を描くこと」に関して自由を感じられず、行き詰まりを感じていました。

そんなとき、ふと子供用の図鑑を開いたときに目に入った動物の図を見て「それまで動物って“知って”いるのに、いざ絵にしようとするとわからない」存在だと気がつきます。ただ見ているだけではわからない存在である動物のかたちを、自分の腕を動かして描き「自分の体」で知ることの楽しさを覚えたことが、ミロコマチコが動物を描き始めたきっかけでした。

また、ミロコマチコの絵には動物のほか、植物をはじめとした自然が登場します。コンペ「ザ・チョイス」にミロコマチコが初入選したのは植物の絵であり、それも動物と同じく子供の図鑑を開いたことからインスピレーションを得たといいます。

動物、植物の生き物の「かたち」は、見たらそれだとわかっても、いざ「描こう」とするとわからない。その自分じゃない生き物のことを描きながら知る、というアクションが、ミロコマチコの原点なのです。

ミロコマチコの絵画について

ミロコマチコは、絵本作家でもあり、画家でもあります。

動物の絵が特に人気であり、フラットな画面の中に豊かな色彩、躍動感ある動物のフォルムは、その生命感や佇まいを、どこか私たちの身近に感じさせます。実力は、アート雑誌の巨塔『美術手帖』にもその絵画について取り上げられるほど。

ミロコマチコの動物の絵で特徴的なのが、その動物の瞳。その絵に対峙すると、人間に媚びない、ワイルドで鋭い瞳に射抜かれるような心地になるその瞳は、ミロコマチコは絵の最後に描きます。「画竜点睛を欠く」ということわざがありますが、まるで瞳を描くことが、絵の動物に命を吹き込む儀式のようにも感じられるようです。

特に、猫はミロコマチコは普段身近で見ているということもあり、その目線にリアリティを感じます。草原から顔を出した猫が、今その時「見つかってしまった!」かのような表情は、シャープな印象を持ちつつもどこか愛らしさがあふれています。

ところで、ミロコマチコの絵画は「下手だ!」と世間に揶揄されることがあります。しかし、「下手だ!」という人の大抵は美術を正しく理解しているのか、疑問が残ります。

まるで写真のように、見ているものを見たまま絵に写し取ることを「良し」とされていたのは、実はアートシーンではもう古い考え方。写実主義、およびレアリズムの時代は最近でも19世紀までです。ミロコマチコを「下手」と思う人は、まず「抽象表現」の世界のことを知らなければなりません。

「絵の良さ」というのは正しく描けているかどうか、ではありません。そもそも「正しさ」とはなんでしょうか?私たち一人ひとりが目に見えているものが、それぞれ同じ形で同じ色だとは限らないのです。それよりも、その絵がより強い印象を与えること、何か感情を沸きあがらせることはどのように表現するのか、という部分に注目してみましょう。

ミロコマチコの絵画に現れるその色彩の使い方や動物のフォルムは、もちろん本来の動物の色やかたちと異なる時があります。しかし、「見たまま」の正確な色、「正しい」かたちをそのまま描いたところで、その感動や生命感や存在感は伝わるでしょうか。

抽象的な表現は、そのままの色やかたちよりも、感情や存在感をそのもの以上に鮮烈に表します。つまりは、私たちに現実世界を見ているだけでは得難い感動を与えてくれるものがアートという存在。ミロコマチコの絵も、そのような抽象表現としての絵画なのです。

そうした意識の上で絵画を鑑賞できて、初めてものの良し悪しがわかるのではないでしょうか。ミロコマチコは個展やグループ展、またはワークショップなどのイベントの際に「ライブペインティング」という、その場で絵を描いてみせるアクションをすることがありますが、その迫力は圧巻です。

ミロコマチコの絵本のファンも、原画の迫力を身近で感じることでより新たな魅力に触れられるでしょう。個展も随時開催されるので、一度足を運んでみることをおすすめします。

大人も欲しくなる絵本たち

ミロコマチコは大学で児童文学を学び、独特な色彩とフォルムの生き物を描き、絵本を手がけるアーティスト。日常の出来事や感情を動物の世界で表現するその絵本は、子供だけでなく大人のファンも多く、年齢問わず評判を集めています。

デビュー作の『オオカミがとぶひ』は、ミロコマチコ自身が強風の中を散歩している時に発想を閃いたとか。びゅうびゅう吹き抜ける風の中に、駆け回るオオカミの姿を想像の中に得たといいます。

そうして、人間としてのミロコマチコ自身が感じ取った感覚や感情を、動物の世界のおはなしに表現することで、読み手も人間でありながら、自然の中にいる動物の生命感が身近にあるような感覚を覚えます。

物に囲まれて生きる人間と違って、その体ひとつで生きている動物の強さに惹きつけられる反面、人間である自分の生き物としての弱さや、失った本能的な感覚など、ミロコマチコの絵本からは「人」と「動物」の対立をリンクし、同化するような没入感があります。

その、むき出しの感性をぶつけたような絵と、やさしくもあり、乱暴なようでもあるおはなしの内容で彗星のごとく絵本業界に現れたミロコマチコ。二作目の絵本『ぼくのふとんはうみでできている』は小学館児童出版文化賞を受賞。そして『てつぞうはね』は講談社出版文化賞絵本賞を受賞するなど、目覚ましい活躍を見せます。

『ぼくのふとんはうみでできている』は、夜眠るのを怖がる子どもに読み聞かせたくなる絵本。ミロコマチコ自身も夜の暗闇が苦手だといい、一緒に不安を拭い去るようにイマジネーションを膨らませ、読み手をユニークな「布団の中の世界」に導びきます。海でできた布団、焼きたてのパンでできたおいしそうな布団など、読んでいるうちに夜の怖さなんか忘れて熟睡できそう。

『てつぞうはね』はミロコマチコ自身の愛猫・てつぞうとの日々を綴った作品。人気のドキュメンタリー番組「情熱大陸」でも注目をあつめた絵本です。猫、てつぞうへの愛情とユーモアたっぷりで描かれています。

2014年出版の『ヒワとゾウガメ』は、長生きのために自分より命の短い友達をたくさん無くしてきたゾウガメと、ゾウガメとおしゃべりしにくるヒワという鳥のおはなし。限りある命という、誰もが持つ課題と、身近にいるかけがえのない存在とのことを考えさせられる、大人も読みたい作品です。

そのほか、『オレときいろ』『まっくらやみのまっくろ』といった「色」をテーマにしたミロコマチコの色彩感覚溢れる作品や、他の著者との合作『うそ』(中川ひろたか作)『いっしょにアんべ!』(高森美由紀作)、そしてミロコマチコと生活する三匹の愛猫との日々を綴ったイラストエッセイ『ねこまみれ帳』など、大人と子供が一緒に楽しめる絵本や書籍を多数手がけています。

ミロコマチコはそのイラストを使用したグッズも展開されており、猫のドローイングをかたどったポーチやノート、トートバッグなども人気。カレンダーや手帳なども、おしゃれな色彩でぜひ手に入れたくなります。ミロコマチコの絵は一部販売されていますが、絵本の原画は購入できないので、欲しい時にはそのポスターを入手しましょう。部屋に飾ると、鮮やかながらモダンなワンポイントとなりそうです。

まとめ

ミロコマチコは、絵本の世界でも新進気鋭の注目株の作家であり、その絵画も大人気。2019年もすでに個展を数回行っており、9月の個展『龍のしっぽは空の形』も注目を集めるでしょう。

時に目が覚めるように美しい、時に嵐のように激しい色使いで描く絵も現在精力的に制作されていますが、そのほか無印良品など各地のワークショップでも引く手数多。2014年には伊勢丹クリスマスのメインビジュアルを担当するなど、絵本の世界以外でも日本中で活躍を見せています。

今後の絵本や絵画展など、様々な活動が楽しみですね。まだその存在を知らない人も、まずは、本屋さんの絵本コーナーでミロコマチコの世界に飛び込んでみましょう。

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